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ダンの誘い
24.ダンの誘い①
『うちの社長が、田川さんに来てほしいと言ってます』
うちの社長とは、中川重次郎のことだ。昂胤は爺さんと呼んでいる。
あの爺さん、また何かしでかしたか。爺さんには去年、《瓶詰めレター》事件を持ち込まれて、何ヵ国か行ったり来たりしてようやく解決したばかりだ。
「急ぐんですか」
『はい。すぐ呼べ、と言ってます』
相変わらず、わがままな爺さんだ。
「俺たちが今博多に居ることを、爺さんは?」
『すんません。私の依頼で今博多に居ると…』
「あはは。まいったな。それで爺さんは俺をよびつけたわけか」
『来ていただけますか』
「行かないと向井さんが困るんでしょう?」
『はぁ…』
「わかりました。伺います」
『ありがとうございます! 石垣島までお迎えにあがります。ありがとうございます!』
幸三は、さんざん礼を言って電話を置いた。
「中川の爺さんっすか?」
さっそく雄大が訊いてきた。眼が輝いている。
「やけに嬉しそうじゃないか」
「これから、行くんでしょ?」
何か事件のにおいをかいだのか、久しぶりにパクに会えるからか、雄大はテンションがあがっていた。
「ああ、予定変更だ」
昂胤も、かすかに高揚感を覚えた。石垣島までのチケットを手配し、石垣島に着く時間を孝三に連絡した。専用機で待機しておくとのこと。
《瓶詰めレター》事件以来だから、ほぼ1年ぶりだった。
中川重次郎。72歳。
辺境に住むただの釣り好き爺さんだと思っていたら、内閣調査室の創始者だという。室を後輩に譲っている今、自分としては、釣り三昧の生活をしたいらしい。
だが、事件のほうから寄ってくるのか、自分から首をつっこんでいるのか、世間からいまだに隠居させてもらえないようだ。
少なくとも、《瓶詰めレター》事件は、重次郎が自分から首をつっこんでいた。
昴胤の事務所に、1年前、突然重次郎がやってきて、この謎を解けと言ってから始まったのだ。
石垣島に迎えのヘリが来ていた。重次郎個人所有の島までは、ヘリコプターで行く。絶壁に囲まれているため、船舶は接岸できないからだ。
重次郎個人所有のヘリのパイロットは、秘書を兼務しており、重次郎のボディーガードでもあった。
幸三がゲートで待っていた。昴胤を見つけると、急いで近寄って来た。
「田川さん、ありがとうございました。菅原代行から詳しく聴きました」
顔を見るなり、昴胤の手を強く握って幸三が言った。
「いえ。たいしたことしていません」
「いいえ。とんでもないことです。ほんとうにありがとうございました。お疲れのところを無理言ってすみません。せかすようで申し訳ないのですが、さぁ、まいりましょう。社長が首を長くして待っています」
これだけ言うと、幸三は、先に先に立って歩きだした。昴胤が質問する間もなかった。
重次郎の島までは、順調なフライトだった。パイロットは、相変わらず口が堅く、重次郎の用向きを訊いても何も言わなかった。
『うちの社長が、田川さんに来てほしいと言ってます』
うちの社長とは、中川重次郎のことだ。昂胤は爺さんと呼んでいる。
あの爺さん、また何かしでかしたか。爺さんには去年、《瓶詰めレター》事件を持ち込まれて、何ヵ国か行ったり来たりしてようやく解決したばかりだ。
「急ぐんですか」
『はい。すぐ呼べ、と言ってます』
相変わらず、わがままな爺さんだ。
「俺たちが今博多に居ることを、爺さんは?」
『すんません。私の依頼で今博多に居ると…』
「あはは。まいったな。それで爺さんは俺をよびつけたわけか」
『来ていただけますか』
「行かないと向井さんが困るんでしょう?」
『はぁ…』
「わかりました。伺います」
『ありがとうございます! 石垣島までお迎えにあがります。ありがとうございます!』
幸三は、さんざん礼を言って電話を置いた。
「中川の爺さんっすか?」
さっそく雄大が訊いてきた。眼が輝いている。
「やけに嬉しそうじゃないか」
「これから、行くんでしょ?」
何か事件のにおいをかいだのか、久しぶりにパクに会えるからか、雄大はテンションがあがっていた。
「ああ、予定変更だ」
昂胤も、かすかに高揚感を覚えた。石垣島までのチケットを手配し、石垣島に着く時間を孝三に連絡した。専用機で待機しておくとのこと。
《瓶詰めレター》事件以来だから、ほぼ1年ぶりだった。
中川重次郎。72歳。
辺境に住むただの釣り好き爺さんだと思っていたら、内閣調査室の創始者だという。室を後輩に譲っている今、自分としては、釣り三昧の生活をしたいらしい。
だが、事件のほうから寄ってくるのか、自分から首をつっこんでいるのか、世間からいまだに隠居させてもらえないようだ。
少なくとも、《瓶詰めレター》事件は、重次郎が自分から首をつっこんでいた。
昴胤の事務所に、1年前、突然重次郎がやってきて、この謎を解けと言ってから始まったのだ。
石垣島に迎えのヘリが来ていた。重次郎個人所有の島までは、ヘリコプターで行く。絶壁に囲まれているため、船舶は接岸できないからだ。
重次郎個人所有のヘリのパイロットは、秘書を兼務しており、重次郎のボディーガードでもあった。
幸三がゲートで待っていた。昴胤を見つけると、急いで近寄って来た。
「田川さん、ありがとうございました。菅原代行から詳しく聴きました」
顔を見るなり、昴胤の手を強く握って幸三が言った。
「いえ。たいしたことしていません」
「いいえ。とんでもないことです。ほんとうにありがとうございました。お疲れのところを無理言ってすみません。せかすようで申し訳ないのですが、さぁ、まいりましょう。社長が首を長くして待っています」
これだけ言うと、幸三は、先に先に立って歩きだした。昴胤が質問する間もなかった。
重次郎の島までは、順調なフライトだった。パイロットは、相変わらず口が堅く、重次郎の用向きを訊いても何も言わなかった。
更新日:2015-04-10 17:23:09