- 13 / 213 ページ
11.雄大⑥
次の日。
雄大は早朝から事務所内外を清掃したあと、新聞を読んでいた。夕実は新聞切り抜きを終えていた。
今朝のコーヒーは夕実が入れたようだ。
昂胤はまだ来ていない。
「夕実ちゃん、ほんとにマナー研修みたいなこと、すんのかよ」
雄大が、夕実に訊いた。
「あたりまえでしょ。所長に言われたでしょ。今日から研修、始めるわよ」
「俺にできると思ってんのか」
「チャレンジ精神が持てれば、門戸を開くのは自分。あいつは根性だけはあるって、所長が言ってらしたわよ」
「へえ。ほんとか」
雄大が嬉しそうに言った。
夕実は、所長の言いつけだからしかたなく引き受けたが、受けた以上は成果をあげて、昂胤にいいところを見せたいと思っていた。
「たいていの人はね、『自分には無理』と思うことでやる前から諦めてしまうのよ。でもねユーちゃん、練習と根気さえあれば、大概のことはできるようになるわよ」
「うわぁ、夕実ちゃん、いいこと言うじゃねえか」
「ユーちゃんの空手だけど、苦しい練習を乗り越えて、4段になったんでしょ。マナーの勉強なんて、それに比べりゃ楽なものよ」
「えへ。そうだよな」
「ねえ、二人でがんばって、所長をびっくりさせましょうよ」
「所長の言いつけじゃ、やるっきゃねえもんな」
「根性見せなさいっ!」
「オッス! やってやろうじゃねえか!」
「ユーちゃん、まずその返事やめなさい」
「オッス、あ!」
「オスじゃなく、“はい”。それと、レッスン中は、私にタメ語はダメ。ちゃんと敬語を使いなさい」
「敬語って何だよ」
「所長に使ってるようなしゃべり方」
「夕実ちゃん、俺より年下だぜ。何で俺が?」
「私はユーちゃんのマナーの先生だからよ。私を空手の師匠だと思いなさい。レッスン中は、絶対よ」
「わかったよ」
「わかりました、でしょ」
「ちぇっ。わかりました」
「ちぇっ、は余分です!」
「うるせえな、まったくよ」
「雄大っ!」
「お? あ、はい、わかりました」
「じゃ、今から始めるわよ」
「はい。よろしくお願いします」
こうして二人の子弟関係が始まったが、昂胤は、雄大にさして期待しているわけではなかった。事務所がヒマだから、時間を持て余すだろうと思って言ってみただけだ。昂胤の本当の狙いは、雄大の英会話力養成だった。
次の日。
雄大は早朝から事務所内外を清掃したあと、新聞を読んでいた。夕実は新聞切り抜きを終えていた。
今朝のコーヒーは夕実が入れたようだ。
昂胤はまだ来ていない。
「夕実ちゃん、ほんとにマナー研修みたいなこと、すんのかよ」
雄大が、夕実に訊いた。
「あたりまえでしょ。所長に言われたでしょ。今日から研修、始めるわよ」
「俺にできると思ってんのか」
「チャレンジ精神が持てれば、門戸を開くのは自分。あいつは根性だけはあるって、所長が言ってらしたわよ」
「へえ。ほんとか」
雄大が嬉しそうに言った。
夕実は、所長の言いつけだからしかたなく引き受けたが、受けた以上は成果をあげて、昂胤にいいところを見せたいと思っていた。
「たいていの人はね、『自分には無理』と思うことでやる前から諦めてしまうのよ。でもねユーちゃん、練習と根気さえあれば、大概のことはできるようになるわよ」
「うわぁ、夕実ちゃん、いいこと言うじゃねえか」
「ユーちゃんの空手だけど、苦しい練習を乗り越えて、4段になったんでしょ。マナーの勉強なんて、それに比べりゃ楽なものよ」
「えへ。そうだよな」
「ねえ、二人でがんばって、所長をびっくりさせましょうよ」
「所長の言いつけじゃ、やるっきゃねえもんな」
「根性見せなさいっ!」
「オッス! やってやろうじゃねえか!」
「ユーちゃん、まずその返事やめなさい」
「オッス、あ!」
「オスじゃなく、“はい”。それと、レッスン中は、私にタメ語はダメ。ちゃんと敬語を使いなさい」
「敬語って何だよ」
「所長に使ってるようなしゃべり方」
「夕実ちゃん、俺より年下だぜ。何で俺が?」
「私はユーちゃんのマナーの先生だからよ。私を空手の師匠だと思いなさい。レッスン中は、絶対よ」
「わかったよ」
「わかりました、でしょ」
「ちぇっ。わかりました」
「ちぇっ、は余分です!」
「うるせえな、まったくよ」
「雄大っ!」
「お? あ、はい、わかりました」
「じゃ、今から始めるわよ」
「はい。よろしくお願いします」
こうして二人の子弟関係が始まったが、昂胤は、雄大にさして期待しているわけではなかった。事務所がヒマだから、時間を持て余すだろうと思って言ってみただけだ。昂胤の本当の狙いは、雄大の英会話力養成だった。
更新日:2016-07-04 11:45:53