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能力(ちから)
これから、わたしのことを話します。
わたしは、極普通の高校二年生。甘い物が好きで、勉強が嫌いで、素敵な恋に憧れてて、スタイルも気にしてる。どこにでもいるちょっとシャイな女の子。
学校は、良くも悪くもない普通高。そこからバスで二十分くらいの所の集合住宅に、家族と住んでいた。家族は、父と、母と、兄の四人家族。特にこれと言って変わった所のない平凡な家族。
でも実は、わたしにはひとつだけ普通じゃない所があった。それは、超能力が備わっていること。そうは言っても大したものじゃなくて、極めて限定的にしか働かない、予知能力。自分の身の周りで24時間以内に起こる、危険な事や、危険じゃなくても、大きな出来事なんかが自分の意思じゃなくて不意に予知される、と、いったもの。
だから、テストのヤマを当てようなんてことには働いてくれない。
具体的にどういったものかと言うと、今朝も、こんな事があった。
そこは大きな幹線道路。バスの他にも、大型のトラックや沢山の車が行き来している。わたしは、そこに面した歩道を友人と話しながら歩いていた。
ふと会話が途切れた時に、何気なしに少し先にあるポストに目をやって、そこに、ジュースの空きビンが転がっていることに気付いた。それ以外はいつもの通学風景と変わりなかった。
そのビンは、本当に端の方に転がっていた。
でもわたしは予知した。それが、一台の大型トラックに踏まれて歩道側へ跳ね飛んで来るのを。このまま歩いて行けば、わたし達に被害が出るかも知れない。もう、今からじゃ阻止できない。なぜなら、わたしが予知したことは必ず起こるから。わたしにできることは、それを回避すること。
わたしは、友人に不自然に思われないように立ち止ろうと考えた。そこで、手紙を出すフリをすることにした。幸い、ポストのある辺りは安全なようだから。
ポストの前まで行きカバンを開ける。
「あれ?手紙?マジで?珍しいね」
友人が話し掛けてきたその時、強い突風が吹き、わたし達のスカートや埃を巻き上げ、更に、ビンを車道へ転がした。
そして、予知した通り、パシーンという鋭い音を発してビンは飛び散った。少し先で小さなどよめきが起こっていた。誰かが破片で怪我をしたみたいだった。
「びっくりしたぁ…あのまま歩いてたら、わたし達も怪我してたかもだよぉ」
友人が少し蒼くなっていた。
こんな感じで、小さな危険を何度も回避してきた。でも、こんな地見な能力(チカラ)じゃなくて、もっと派手な…例えば、テレパシーとか、サイコキネシスとか、テレポーテーションとか、もっと使える能力が欲しかったな…。そしたら、わたしの人生、もっと変わっていたかもしれないのに…。
これまでの予知の中で最大の物は、小学校三年の時、おばあちゃんの死を、予知したこと。
その日は朝から鬱陶しいほど雨がザバザバ降っていた。どこかの家の、まだ緑色の花を付けたアジサイが、雨に打たれて淋しそうに項垂れていたのを、よく覚えている。
授業中、わたしは、窓を伝って流れ落ちていく雨を見つめていた。
雨は、わたしの視界を遮って、わたしの精神(ココロ)を、暗い、丸で底の見えない深海へと引きずり込んでいった。
恐かった。冷たかった。途轍もなく大きな闇がわたしを包み込んでいた。そして、精神が辿り着いた所…。
そこは温かかった。真っ暗だったわたしの世界が、急激に真っ赤になっていくのを感じた。閉じていた心の目を開けると、そこには、どうどうど流れる激流が、果てしなく流れていた。
わたしはその流れに乗った。乗っている間は、なぜかとっても幸せだった。だってそれは、おばあちゃんの体の中を流れる血液を表していたんだもの。その、規則正しい流れが、やがて乱れ、弱々しくなり、そして…止まった。
雨に濡れていたアジサイの花が、ポトリと落ちた様に感じた。
父も、母も、兄も、おばあちゃんの死に目に立ち会えなかったけど、わたしは、おばあちゃんの傍、いえ、おばあちゃんの体の中で看届ける事ができたんだ。
頬を濡らした涙の感覚が、だんだんと鮮明になって、わたしはおばあちゃんの体の中から引き戻された。わたしははっきりと予知していた。おばあちゃんは、今晩、いなくなるのだ、と。
心配そうな先生の顔が見えて、帰った方がいいと言われた。母が迎えに来てくれて、家に帰る道すがら、おばあちゃんの事を話したけれど、母は怪訝な顔をするばかりで、なかなか信じてはくれなかった。でも、わたしがあんまり必死に言うものだから、父に早く帰って来てくれる様連絡を入れて、家族が揃ってから、おばあちゃんの所へ向かった。
その夜遅く、おばあちゃんの所に着いた。でも、もう、おばあちゃんは逝った後だった。母は悔やんでいた。わたしの言ったことを信じていればと。
わたしは、極普通の高校二年生。甘い物が好きで、勉強が嫌いで、素敵な恋に憧れてて、スタイルも気にしてる。どこにでもいるちょっとシャイな女の子。
学校は、良くも悪くもない普通高。そこからバスで二十分くらいの所の集合住宅に、家族と住んでいた。家族は、父と、母と、兄の四人家族。特にこれと言って変わった所のない平凡な家族。
でも実は、わたしにはひとつだけ普通じゃない所があった。それは、超能力が備わっていること。そうは言っても大したものじゃなくて、極めて限定的にしか働かない、予知能力。自分の身の周りで24時間以内に起こる、危険な事や、危険じゃなくても、大きな出来事なんかが自分の意思じゃなくて不意に予知される、と、いったもの。
だから、テストのヤマを当てようなんてことには働いてくれない。
具体的にどういったものかと言うと、今朝も、こんな事があった。
そこは大きな幹線道路。バスの他にも、大型のトラックや沢山の車が行き来している。わたしは、そこに面した歩道を友人と話しながら歩いていた。
ふと会話が途切れた時に、何気なしに少し先にあるポストに目をやって、そこに、ジュースの空きビンが転がっていることに気付いた。それ以外はいつもの通学風景と変わりなかった。
そのビンは、本当に端の方に転がっていた。
でもわたしは予知した。それが、一台の大型トラックに踏まれて歩道側へ跳ね飛んで来るのを。このまま歩いて行けば、わたし達に被害が出るかも知れない。もう、今からじゃ阻止できない。なぜなら、わたしが予知したことは必ず起こるから。わたしにできることは、それを回避すること。
わたしは、友人に不自然に思われないように立ち止ろうと考えた。そこで、手紙を出すフリをすることにした。幸い、ポストのある辺りは安全なようだから。
ポストの前まで行きカバンを開ける。
「あれ?手紙?マジで?珍しいね」
友人が話し掛けてきたその時、強い突風が吹き、わたし達のスカートや埃を巻き上げ、更に、ビンを車道へ転がした。
そして、予知した通り、パシーンという鋭い音を発してビンは飛び散った。少し先で小さなどよめきが起こっていた。誰かが破片で怪我をしたみたいだった。
「びっくりしたぁ…あのまま歩いてたら、わたし達も怪我してたかもだよぉ」
友人が少し蒼くなっていた。
こんな感じで、小さな危険を何度も回避してきた。でも、こんな地見な能力(チカラ)じゃなくて、もっと派手な…例えば、テレパシーとか、サイコキネシスとか、テレポーテーションとか、もっと使える能力が欲しかったな…。そしたら、わたしの人生、もっと変わっていたかもしれないのに…。
これまでの予知の中で最大の物は、小学校三年の時、おばあちゃんの死を、予知したこと。
その日は朝から鬱陶しいほど雨がザバザバ降っていた。どこかの家の、まだ緑色の花を付けたアジサイが、雨に打たれて淋しそうに項垂れていたのを、よく覚えている。
授業中、わたしは、窓を伝って流れ落ちていく雨を見つめていた。
雨は、わたしの視界を遮って、わたしの精神(ココロ)を、暗い、丸で底の見えない深海へと引きずり込んでいった。
恐かった。冷たかった。途轍もなく大きな闇がわたしを包み込んでいた。そして、精神が辿り着いた所…。
そこは温かかった。真っ暗だったわたしの世界が、急激に真っ赤になっていくのを感じた。閉じていた心の目を開けると、そこには、どうどうど流れる激流が、果てしなく流れていた。
わたしはその流れに乗った。乗っている間は、なぜかとっても幸せだった。だってそれは、おばあちゃんの体の中を流れる血液を表していたんだもの。その、規則正しい流れが、やがて乱れ、弱々しくなり、そして…止まった。
雨に濡れていたアジサイの花が、ポトリと落ちた様に感じた。
父も、母も、兄も、おばあちゃんの死に目に立ち会えなかったけど、わたしは、おばあちゃんの傍、いえ、おばあちゃんの体の中で看届ける事ができたんだ。
頬を濡らした涙の感覚が、だんだんと鮮明になって、わたしはおばあちゃんの体の中から引き戻された。わたしははっきりと予知していた。おばあちゃんは、今晩、いなくなるのだ、と。
心配そうな先生の顔が見えて、帰った方がいいと言われた。母が迎えに来てくれて、家に帰る道すがら、おばあちゃんの事を話したけれど、母は怪訝な顔をするばかりで、なかなか信じてはくれなかった。でも、わたしがあんまり必死に言うものだから、父に早く帰って来てくれる様連絡を入れて、家族が揃ってから、おばあちゃんの所へ向かった。
その夜遅く、おばあちゃんの所に着いた。でも、もう、おばあちゃんは逝った後だった。母は悔やんでいた。わたしの言ったことを信じていればと。
更新日:2014-12-10 16:15:54