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「……綺麗だね。昔よりも、ずっと……」
「ああ……そうだな」
 広がる景色を眺めながら、アスマはサクラの肩を抱き寄せた。二千年前よりも景色が美しく見えるのは、穏やかで幸せな時間が流れているからかもしれない。
「イプトゥリカは、独りぼっちじゃなくなったね」
「ああ、もう独りじゃないさ」
 孤独を感じていたイプトゥリカは、孤独ではなくなった。
神殿を一般に開放してから、多くの人々がイプトゥリカを参拝するために訪れるようになったのだ。熱心に、毎日祈りを捧げに訪れる者も少なくない。イプトゥリカの孤独を癒すのは、巫女だけではなくなった。その事を、イプトゥリカは実に喜んでいるとサクラは言う。イプトゥリカが世界を守る存在であり続ける限り、孤独になる事はない。それを喜ばしく思いながら、アスマは遠くを見遣った。海の先には、大陸の影がぼんやりと見えている。
「ジュート達を呼べなかったのは残念だったな」
「そうだね……今どこにいるんだろうね」
 二人の結婚式には、ジュートとユーゴー、リィリーの姿はなかった。三人は今、再び世界を巡る旅に出ているのだ。ヴェルハルト亡き今も、世界中にはガジュマが存在し続けている。そのガジュマを、本来あるべき世界へ帰すための旅なのだ。
 旅を決意したのは意外にもジュートで、そのきっかけはコンサンを降る途中でガジュマ達を元の世界へ帰した事らしい。あるべき世界へ帰りたい。そう願うガジュマは、世界中にいるはずだ。そんなガジュマ達の願いを叶えてあげたいというジュートの気持ちに、ユーゴーとリィリーが賛同した。リィリーはガジュマであるが故に彼らの声を聞く事が出来る。魔法にも長けている事から、協力して多くのガジュマを本来の世界へ帰す事が出来るだろう。だが、それを望まず、人間を襲うガジュマがいるのも確かだ。そのようなガジュマと戦うために、ユーゴーがいる。ジュート自身も剣を携え、それらと戦うだろう。ここへ戻ってくる頃には、大きく成長しているだろうと、アスマとサクラは思う。
 バルディとパーシファルは今も騎士としてアスマの側に仕え、ユーゴーが不在である分も兵を束ね、務めていた。

更新日:2014-11-13 23:20:57

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