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 アスマは執務室を出ると、直ちに部下のいる訓練所へと戻った。そこで各々が得意とする武器を扱い、鍛錬を積む部下の中から三人を選び、呼び出す。
「バルディ、パーシファル、ユーゴー。こちらへ」
 呼び出された三人の青年は鍛錬の手を止め、アスマの側へ駆け寄った。言葉を待つ彼らへ、アスマは任務の内容を説明する。任務を受け、了解と敬礼して見せる彼らへ、アスマは静かに頷いた。
「すぐに準備をしてくれ。軍服だと警戒されるかもしれない、私服の方が良いだろう。準備が出来次第、兵舎の前に集合だ」
 アスマに促され、動き出した部下の後を追うように、自身も自室がある兵舎へと向かう。
 しんと静まり返った兵舎の廊下を進み、突き当たりにある部屋の前で足を止めた。ドアを開けば、見慣れた室内に安堵からか、小さな溜息が零れる。
 自室に戻ったところで、身に着けている軍から支給された制服に手をかけ、アスマは手早く着替えを始めた。こういった任務を受けるのは、初めてではない。慣れた様子であっという間に身支度を整えると、身を翻して自室を後にした。
 外へ向かおうと歩く廊下に、来た時とは違う、少々騒がしい音が響いてくる。何の音かと疑問に思いながら、足を進めていくアスマ。ドアが開きっぱなしの一室で立ち止まり、確かここはパーシファルの部屋だったと思いつつ、中を覗き込んだ。
「パーシファル。随分騒がしいな?」
「あ、アスマ様! すみません、その辺の物を落としてしまって……」
 とても慌てた様子のパーシファルに小さく笑いながら、アスマは落ち着くように声をかける。
「そんなに慌てなくても大丈夫だ。焦らずに、な?」
「は、はい」
 返事をして身支度を整えるパーシファルの姿を見ながら、彼はこういった任務を受けるのは初めてなのだから、焦るのも無理はないとアスマは思う。
「アスマ様、どうしてこの任務に僕を選んで下さったのですか?」
 剣を腰に携えながら、パーシファルはアスマへ問いかけた。パーシファルはまだ新米と呼ばれるような兵士であり、本人も己が未熟だと自覚している。その未熟さゆえ、アスマやユーゴー、バルディの足を引っ張ってしまうのではないかと考えているのだ。

更新日:2014-11-06 19:28:10

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