官能小説

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三位は見た

 こんにちは。わたくし、鎧鏡家奥方様候補雨花様専属梓の丸使用人筆頭補佐側仕え第三位……梓の三位でございます。


 わたくしがお仕えしております雨花様は、大変お可愛らしいお方だと、皆が口を揃えて申しますが……わたくしも例に漏れず、雨花様にそのような印象を持っております。
 雨花様のようなお方を、『ツンデレ』と言うのでしょうか?


 つい先日のことでございます。
 一位様が、お珍しくお休みを取られた日のこと。昼過ぎ、急に若様から、お渡りの申し入れがございました。
 一位様のいない間は、使用人筆頭補佐であるわたくしが、いちい様の代理をさせていただくことになっております。一位様は、そうそうお休みを取らないお方ですので、この日が、わたくしが、一位様の代わりに、若様を梓の丸にお迎えする、初めての日でございました。何か粗相があっては、一位様に申し訳が立ちません。
 一位様は、三の丸にいらした時から、評判の高い方でいらっしゃいました。そのような一位様の評判を、代理のわたくしが汚してはいけません。
 わたくしは、大層意気込んで、若様のお渡り準備を致しました。


 さて。若様を、つつがなく雨花様のお部屋にお迎え致しましたあと、わたくしは、お二人に何かあっては大変だと、しばらく雨花様のお部屋の前にて、聞き耳を立てておりました。もちろん、コトが始まれば、その場を去るつもりで……で、ございます。
 すると、しばらく静かだった室内から、何やら、お二人で言い合いをなさっていらっしゃるような声が聞こえて参りました。
 喧嘩をなさっていらっしゃるのだろうかと、ハラハラしながら聞いておりますと、どうやら、ゲームの勝ち負けについてのお話らしいのです。
 勝った方がどうのやら、負けたのがどうのやら、お前はいっつもどうのやら、そなたがそのようだからやら……途切れ途切れに聞こえてくる口論は、止みそうにありません。
 止めに入ったほうが良いのだろうか?放っておいたほうが良いのだろうか?と思っているそのうち、何やら口論なさったまま、離れの和室に向かう、お二人の足音が聞こえて参りました。
 何故和室に移動なさったのだろう?……大丈夫だろうか?
 一位様がいらっしゃらない間に、お二人に何かあっては大変です。
 わたくしは、どうにも心配になり、お休みの一位様に連絡を取ってしまいました。
 一位様に今までの話をすると、電話先でお笑いになって、『心配いりませんよ。寝具の準備がぬかりないかだけ確認してください』とおっしゃって、電話をお切りになりました。
 寝具の準備をしたのは、五位です。五位に、和室の寝具の準備はぬかりないか確認したところ、『心配には及びません』と、爽やかな笑顔で、親指を立てて参りました。……むしろ心配になりはしたものの、五位の言葉を信じて、胸をなでおろすことにしたのですが……寝具は良いとしても、お二人が言い争っていたことの心配は消えません。


 一位様は大丈夫とおっしゃいましたが、わたくしは、どうにかして、お二人のご様子をこっそり覗けないものかと、しばらくウロウロしながら考えた末、庭から和室を伺おうと、外へ駆け出しました。
 鴬張りの渡り廊下は、通ればすぐにわかってしまいますので、和室に面した庭から、こっそり中を覗こうと思ったのでございます。
 お館様が造られたお庭から覗くのが、和室の中が一番よく見えるのでございますが、あの庭に灯された池の灯りが、いくら穏やかとはいえ、姿を隠すには明るすぎます。
 わたくしは、何とか室内を覗けそうな場所を探し、ようやく、風呂場脇の小さな高窓にはしごをかけ、そっと中を覗きました。


 ろうそくの灯りに照らされたお二人が、お布団の上、背中を向けた格好で、距離を置いて、横になっていらっしゃいました。
 ああ、まだ喧嘩をなさっていらっしゃるのだと、大層落胆したその時、雨花様が、ほんの少し動かれまして、若様の背中に、ご自分の背中を、ピタリと付けたのが見えました。
 そのあと若様は、後ろに腕をお回しになり、背中を付けたままのお二人が、手をお繋ぎになりました。
 あんなに揉めていらしたのに……。
 その微笑ましい光景に、わたくし、思わずはしごを踏み外すところでした。一位様の代理をしっかりしなければと心配で、このような、覗きまがいのことまでしてしまいましたが……一位様のおっしゃる通り、お二人に、そのような心配は無用でした。


「……ふふっ。」


 繋いだ手を、引っ張り合い始めたお二人を見て、つい笑みが零れてしまいました。本当に、お可愛らしいお二人でございます。
 さて。これ以上の心配は、出過ぎた真似でございましょう。
 わたくしは、静かにはしごをおりました。
 どうぞ、幾久しく……。お二人の夜が、続きますように。
 そう、願いながら。








Fin.

更新日:2014-10-08 21:06:22

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