• 1 / 2 ページ

What I know 1

「お前、気に入らねぇ。」

ゲインはいわゆる問題児だった。

勉強はできない。静かに椅子に座ってなんていられない。引っ越して来た日のまま、誰にも馴染もうとなんてしない。教室を飛び出してはいつも裏の木の上で眠っている、そんな少年だった。

「ゲイン、あ、ゲインって呼ぶけどいいわよね?ゲインは何が嫌いなの?
お勉強?それとも、座っていることが嫌いなのかしら?」

ゲインの現状は変わらぬまま、今日で彼が来てから一ヶ月。
先生はついに彼女――サーヤに助けを求めた。
サーヤは、一言で言ってしまうならば、優等生。丁寧な挨拶。勉強は一番。醸し出す柔らかな雰囲気。先生をはじめ、この小さな農村の大人たちは皆、とびきりサーヤを気に入っている。

どんなことでもそつなくこなせる優等生に、先生は助け舟を求めた。
サーヤなら歳も変わらないのだから、きっと私よりもゲインの心に触れ、解せるでしょうと。
そしてサーヤは二つ返事で引き受けた。笑顔で。

「聞こえなかったのかよ。お・ま・え・が、気に入らねぇんだ。」
「……わた、し?」

色んな答えを想定していた。けれどそんな答えは想定になかった。
ゲインとサーヤの接点は、いま初めて出来たはずなのだから。

「薄気味悪ぃ女。いつもヘラヘラ笑っていやがる。
優等生様ってそんなに楽しいか?」

ぐん、とゲインの顔が近づく。襟首を掴もうとしたのかもしれない。
彼の赤味の強い巻き髪が一瞬だけ、ふれる。

濃茶色の瞳にサーヤが映る。
蒼灰色の瞳にゲインが映る。

「……ゲイン。」

サーヤは、ひとつも怯まなかった。それがなおさら面白くなかったのだろう。
ゲインは聴こえるように舌打ちすると踵を返し、立ち去った。

何人かの下級生が、その様子を見ていたらしい。
先生が大慌てでサーヤの元へ飛んできた。
もういいわ、ごめんなさいね。謝る先生に、サーヤは微笑んで首を振った。

首を、横に。



――はじめて、他人に嫌われた。

まさか、嬉しいわけではない。
けれど、悔しいわけでも、まして悲しいわけでもなかった。

ただ。

ただ、不思議だった。唐突にぶつけられた感情が。

村の誰とも違う。
ゲインは、彼は。

わたしをどう見ているんだろう。



サーヤはしつこいくらいに、ゲインに声をかけ続けた。
朝は真っ先におはようと声をかけたし、お昼になればお弁当を抱えてわざわざゲインの隣に座った。
ゲインが構うなと声を荒げるたびにクラスメートたちはびくびくしていたが、当のサーヤは気に留めなかった。

それはもはや、根競べ。

ゲインはいつしか諦め果てて、ぽつぽつとだがサーヤの相手をし始めた。
勉強するわけではないが、椅子に座って居眠りくらいはするようになった。
それでも先生は大いに喜んで、サーヤに何度も礼を言っていた。

更新日:2014-09-14 23:17:25

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook