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CALLING

「いいなあ。フランは白くて。」

カラスのクロワが、そうつぶやいた。
年のいった白猫フランは、肩をすくめる。

「何をお言いだい。
 あたしにゃアンタのその黒さがうらやましいがね。」

「……。」

ばさり。何もこたえずにクロワがはばたく。
フランがとっさに目をつぶった間に、クロワはどこかへ飛んでいってしまった。


「ぼくだって、黒いぼくがきらいなわけじゃないんだ。」

きらいなのは、自分じゃない。


「鳥さん!」

女の子の表情が、ぱあっと明るくなる。

「やあ、ゆかり――今日もおはなししに、来たよ。」

クロワが笑う。

ぼくのことばは、ゆかりには通じない。
けれど、ゆかりのことばは、ぼくにはわかる。

まっ白のおふとんとまっ白のパジャマ。

ゆかりみたいに白ければ。
フランみたいに白ければ。

そうすれば。

「――ゆかり、窓を開けるんじゃありません!」

「ママ?」

ぼくのことばは、ゆかりのママには通じない。
けれど、ゆかりのママのことばは、ぼくにはわかる。

「カラスなんて真っ黒な鳥、不吉なんだから……!」

ばさっ。

ぼくはすぐに羽ばたいて、巣へとかえるんだ。

ゆかりに「またね」って、ちゃんと言ってから――。


くぁぁ……。


「ああ、嫌な鳴き声。」

母が言う。

「ちがうよ。
 あれは、泣き声だよ……。」

娘が言う。



「だから言ってるじゃないか。ニンゲンのところに行くのはおよしって。」

フランがあきれた顔でため息をつく。

「ニンゲンじゃないよ。“ゆかり”に会いに行ってるんだよ。」

そう言って、さっきまでべそをかいていたクロワがむくれる。

おちびさん、今はまだわからないんだね。
いつかわかるよ――ニンゲンがどんなものなのか。

後ろ足をひきずりながら、フランはそっと、その場を離れた。



「ゆかり――」

クロワは、何度追いはらわれても、こりたりしない。

会いたいから。

ただ、ゆかりに会いたいから。

それだけ。

「ゆかり……」

その部屋は、からっぽだった。
まっ白のふとんが、ていねいにたたまれて。

まっ白のパジャマの女の子は、

どこにも、いなかった。



くぁぁ……くぁぁ。

また、ゆかりを呼ぶ。

鳴き声。

それとも――。



くぁぁ。

「やだ!わたしカラスだめ~!」

小柄な少女が、大げさに肩をすくめてみせる。
背の高い方の少女が、くすっと笑った。

「そう?わたしは、好きだな。」
「え~!ほんとに~?」

少女が顔をこちらに向けた。

「だって――友だちだったもん。」

優しい笑顔。

私は老いた声で、もう一度鳴く。

いや。

もう一度呼ぶ。



     くぁぁ、くぁぁ――君の名を。

更新日:2014-09-14 23:12:24

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