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学習発表会 ~ 主将のプライド

平成の大合併と言われた市町村の合併で発足した如島市は、沿海漁業の拠点として古くから栄えてきた港町と、銘木の産地として有名な山林地帯からなる天然資源に恵まれた地方都市で、合併前にはそれぞれの町村に分かれていた県立高校や分校を市制移行と同時に市の教育委員会に移管し、それらを統合して創設したのが如島市立如島総合高校である。
普通科と情報科の2学科からなる如島総合高校は文武両道を謳うだけあって、県の総合体育館を凌ぐ程の規模を誇る巨大な体育館には各種スポーツ施設が充実していて、学校のランドマーク的な存在にもなっていた。
そんな如島総合高校の体育館1階にある女子更衣室では、思い思いのグループに分かれた14名の生徒たちが、ピンと張り詰めた空気を誤魔化すかのように、ベンチに腰掛けて談笑したり、2人1組になって身体を解したりしていた。



「ねえ、輝美の相手は誰だっけ?」
「情報科の潤子・・
 あの娘、何やるか判らない怖さがあるよね?
 美津子の相手は?」
「私は情報の恵美・・
 まぁ、あの娘はどうせ口先だけだろうけど・・」

Eの字のようにロッカーを並べて2つに区切った更衣室のなかで、グランド側の出入り口に近い区画に陣取った柔道部の面々も、緊張を解すかのように雑談交じりに身体を動かしていたが、主将の敦子だけは、両手を目の前に組んで項垂れるような姿勢でベンチに腰掛けていた。


更衣室の中には、終わったばかりのサッカーの試合を観戦してやや興奮気味の生徒たちが、グランドからガヤガヤと騒がしく移動してくる気配がヒシヒシと伝わってきて、緊張で張り詰めた空気を、否が応でも昂めていた。

周りの喧騒を他所に、敦子が瞑想するかのように目を閉じたまま強張った顔をしていると、彼女たちが受けている選択授業を受け持つ体育科の若手女性教師・沙織が女子更衣室に入ってきた。

「みんな準備は良い?
 じゃあ、第1試合と第2試合の娘たちは来て!」
沙織が声を掛けると、第一試合の敦子と深雪、第二試合の美穂子と理恵の4人は、ウィンドブレーカーやパーカーを羽織って立ち上がった。
「頑張ってぇ~」「負けないでよ~」と何となく気の抜けた声援を受けながら更衣室をあとにした4人は、沙織に続いて非常階段から体育館に入ると、打ち合わせどおり舞台の左右のそでに分かれて、自分たちの順番が来る最後の待ち合わせに入った。


これより、選択体育女子個人競技の学習発表を開始します

沙織の声が体育館にこだますると、それまでガヤガヤと煩かった体育館内が、水を打ったようにシーンとなった。




如島市内には如島総合高校の他に、工業・商業・水産・農業の4学科からなる市立如島実業高校あり、両校とも3年生の選択授業には、進学や就職とはあまり関係のない音楽、美術、家庭科、体育などの科目を、必ず1教科は選択しなくてはならないカリキュラムが組まれていて、年度末試験の後に行われる学習発表会は、いわば選択授業の期末試験と位置づけられている学校行事なのであった。
学習発表会初日の昨日は、朝一番の開会式の後、音楽を選択した生徒たちによる合唱と合奏で、昼休みを挟んで美術などの展示物見学の時間が設けられ、午後は選択体育女子団体Aのバレーと同じく女子団体Bのフットサルの試合。
そして2日目の今日は、午前中が選択体育男子団体Aと選択体育男子個人で、昼休みを挟んでの午後1番は選択体育男子Bのサッカーが行われ、いよいよ最後の科目である選択体育女子個人競技が行われようとしていた。

更新日:2022-06-20 02:27:27

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