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日曜日の午後、出かけよう
そして日曜日の正午過ぎ。
小ぶりな腕時計を見ると、針は約束の十分前をさしていた。
待ち合わせ場所を目指してほんの少し早足で歩く。
駅前のコンビニに辿り着くと、その前に巴が立っていた。
灰色のパーカーに、猫がプリントされたカットソーとカーキ色のショートパンツ姿。
こちらと目が合うと、少し間を置いて近寄ってきた。
「おはよう、愛」
「おはようございます、巴さん」
「髪型が違うから、一瞬分からなかった」
「そ、そうですか?」
コンビニのガラスに写った自分の姿を確認して、髪に手をやる。
白いワンピースに薄いピンク色のセーター。
学校とは違い、お団子ヘアーにまとめてみた。
「おかしいでしょうか……?」
「ううん。そんなことない。可愛いと思う」
「あ、ありがとうございます……」
巴は真っ直ぐとこちらの目を見て褒めてくれる。
社交辞令かも知れないが、率直な物言いだったので何だか気恥ずかしい。
その時、巴は何かに気付いたように自分の背後に視線をやった。振り返ると、稽子が気だるそうにあくびをしながら歩いてきた。
黒い七分丈のカットソーに、空色のジーンズ姿だ。
「はよーっす。もしかして、遅れた?」
「いえ、私も今、来たところです。真守さんもまだみたいですし」
そう聞くと、稽子はコンビニに入っていった。
出てきた彼女の手には、チョコレートがコーティングされたアイスクリームが握られている。
「そのアイス、見たことない」
「ああ? ブラモン知らねーの?」
「巴さん、高校からこっちに来たんでしたっけ?」
「本州にはねーのかな。知らんかった」
稽子がそれを半分食べ終わった頃、駐車場にピカピカの黒い車が止まった。
運転席から緑色の作務衣に、朱色の手ぬぐいを頭に巻いた男性が現れた。
男性は助手席に回るとドアを開き、サングラスをした少女が颯爽と降り立つ。
ベージュ色のパンツに、赤いブラウス。紺色のブレザーに付いたボタンは、金色に輝いている。
こちらを見つけると、優雅にサングラスを外して、男性に預けた。
「ご学友のみなさん、ごきげんよう」
「どこのセレブだ、てめーは」
稽子はアイスをかじりながら、近づいてくる真守をちゃかす。
挨拶をすると、真守はこちらを見ながら口元を手で覆って目を輝かせた。
「やだ……っ。愛ったら、可愛い! 普段の制服姿も可愛いけど、私服もばんばん可愛い! 何なの、天使なの? 何で下界に降り立ってるの?」
「は、はあ……」
巴にも可愛いと言ってもらえたが、真守の言い方は大げさで、これはこれで恥ずかしい。
「おはよう、真守」
「おはよう。巴も可愛いですわよ。天使トモエルは、いつ、天界からこちらへ?」
「十五年前から」
真守はうっとりしながら巴に背後から抱きつき、頭に頬をすりすりとこすり付けている。
巴はなすがままで、何の反応も示さない。
稽子はその様子を冷ややかに見つめながら、食べ終えたアイスの棒を確認する。その後、ゴミ箱に捨てた。どうやら、はずれだったようだ。
「マモリーズエンジェルに比べて、あなたはいつも通り素っ気無い格好ですわね」
「入りたかねーよ、んなもん。それよりどうすんだ、こっから? 昼飯食ってねえから、腹減ってんだけど」
「わたくしもまだですわ」
自分もだ。出かけた先で食べるものと思っていた。
真守に抱きつかれたままの巴が口を開く。
「お昼はこの前のお詫びに、あたしがおごろうと思う。任せてもらってもいい?」
おごりは悪い気がしたが、どこで食べるかは巴に任せることになった。
自分たちの住む柳崎市から十分ほど電車に揺られて、県の中心地へと移動する。
その駅は大きなビルが併設されていた。ここに来れば、ファッション・雑貨のテナントやレストランはもちろん、映画館やクリニックなど、大抵の施設が揃っている。
日曜日の午後ということもあり、駅ビルは主に若い人たちで大変賑わっていた。
人波に流されて見失わぬよう、前を行く巴にしっかりと付いて行く。
真守は終始楽しそうに、うきうきしていた。
「どこへ連れて行ってくださるのかしら? 会席? 中華? イタリアン? フレンチ?」
「高校生で、んな贅沢なもん食えるか。ファミレスとかでいいよ、ファミレスで」
「ふぁみれす……?」
稽子の言葉に、聞きなれない単語とばかりに真守がぽかんと呟いた。
小ぶりな腕時計を見ると、針は約束の十分前をさしていた。
待ち合わせ場所を目指してほんの少し早足で歩く。
駅前のコンビニに辿り着くと、その前に巴が立っていた。
灰色のパーカーに、猫がプリントされたカットソーとカーキ色のショートパンツ姿。
こちらと目が合うと、少し間を置いて近寄ってきた。
「おはよう、愛」
「おはようございます、巴さん」
「髪型が違うから、一瞬分からなかった」
「そ、そうですか?」
コンビニのガラスに写った自分の姿を確認して、髪に手をやる。
白いワンピースに薄いピンク色のセーター。
学校とは違い、お団子ヘアーにまとめてみた。
「おかしいでしょうか……?」
「ううん。そんなことない。可愛いと思う」
「あ、ありがとうございます……」
巴は真っ直ぐとこちらの目を見て褒めてくれる。
社交辞令かも知れないが、率直な物言いだったので何だか気恥ずかしい。
その時、巴は何かに気付いたように自分の背後に視線をやった。振り返ると、稽子が気だるそうにあくびをしながら歩いてきた。
黒い七分丈のカットソーに、空色のジーンズ姿だ。
「はよーっす。もしかして、遅れた?」
「いえ、私も今、来たところです。真守さんもまだみたいですし」
そう聞くと、稽子はコンビニに入っていった。
出てきた彼女の手には、チョコレートがコーティングされたアイスクリームが握られている。
「そのアイス、見たことない」
「ああ? ブラモン知らねーの?」
「巴さん、高校からこっちに来たんでしたっけ?」
「本州にはねーのかな。知らんかった」
稽子がそれを半分食べ終わった頃、駐車場にピカピカの黒い車が止まった。
運転席から緑色の作務衣に、朱色の手ぬぐいを頭に巻いた男性が現れた。
男性は助手席に回るとドアを開き、サングラスをした少女が颯爽と降り立つ。
ベージュ色のパンツに、赤いブラウス。紺色のブレザーに付いたボタンは、金色に輝いている。
こちらを見つけると、優雅にサングラスを外して、男性に預けた。
「ご学友のみなさん、ごきげんよう」
「どこのセレブだ、てめーは」
稽子はアイスをかじりながら、近づいてくる真守をちゃかす。
挨拶をすると、真守はこちらを見ながら口元を手で覆って目を輝かせた。
「やだ……っ。愛ったら、可愛い! 普段の制服姿も可愛いけど、私服もばんばん可愛い! 何なの、天使なの? 何で下界に降り立ってるの?」
「は、はあ……」
巴にも可愛いと言ってもらえたが、真守の言い方は大げさで、これはこれで恥ずかしい。
「おはよう、真守」
「おはよう。巴も可愛いですわよ。天使トモエルは、いつ、天界からこちらへ?」
「十五年前から」
真守はうっとりしながら巴に背後から抱きつき、頭に頬をすりすりとこすり付けている。
巴はなすがままで、何の反応も示さない。
稽子はその様子を冷ややかに見つめながら、食べ終えたアイスの棒を確認する。その後、ゴミ箱に捨てた。どうやら、はずれだったようだ。
「マモリーズエンジェルに比べて、あなたはいつも通り素っ気無い格好ですわね」
「入りたかねーよ、んなもん。それよりどうすんだ、こっから? 昼飯食ってねえから、腹減ってんだけど」
「わたくしもまだですわ」
自分もだ。出かけた先で食べるものと思っていた。
真守に抱きつかれたままの巴が口を開く。
「お昼はこの前のお詫びに、あたしがおごろうと思う。任せてもらってもいい?」
おごりは悪い気がしたが、どこで食べるかは巴に任せることになった。
自分たちの住む柳崎市から十分ほど電車に揺られて、県の中心地へと移動する。
その駅は大きなビルが併設されていた。ここに来れば、ファッション・雑貨のテナントやレストランはもちろん、映画館やクリニックなど、大抵の施設が揃っている。
日曜日の午後ということもあり、駅ビルは主に若い人たちで大変賑わっていた。
人波に流されて見失わぬよう、前を行く巴にしっかりと付いて行く。
真守は終始楽しそうに、うきうきしていた。
「どこへ連れて行ってくださるのかしら? 会席? 中華? イタリアン? フレンチ?」
「高校生で、んな贅沢なもん食えるか。ファミレスとかでいいよ、ファミレスで」
「ふぁみれす……?」
稽子の言葉に、聞きなれない単語とばかりに真守がぽかんと呟いた。
更新日:2014-09-05 19:14:40