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オレンジ村

小さな蔦に別れを告げて、木々たちの笑い声に送られて森を出ると、オレンジ色の空がいっぱいに広がっていた。
もうそろそろ日が暮れる。
はるかかなたの山のふもとには、村の家々が見えていた。
「あの村まで行って、今夜はどこかの家に泊めてもらうことにしよう」
パドラスとピロンは、楽しくて、歌をハミングしながら歩いていった。

「ねえ、ニュート、あなたは一体どこから来たの?あの森に住んでいたわけじゃないでしょう?」
「ちがうんよ、われは遠い星からきたんよね」
「遠い星から? 私たちのところへ飛んできたの?」
「ちがうよね、宇宙船できたんよね、宇宙船から汝らのところへ飛んできたんよね」
ピロンはびっくりした。
「それじゃあ、つまり、あんたは宇宙人、じゃない、宇宙ハリネズミっていうわけ?」
「まあそうとってもいいけんど」
「宇宙人だから、そんな変な言葉をしゃべるの? 昔の言葉と方言が混ざったみたいな。それに言い方も、なんだかおじいさんみたいで、可愛くないね」
「ピロンさんや、あんたさんははっきりものを言う人やんね。われの話し方は変でも、可愛くなくてもいいんやね。こんなに見た目が可愛いうえに、声まで可愛かったら、みんながペットにしたいと思って、捕まえられてしまうぞな」
「たしかにとっても可愛い顔してる。私たちのペットにならない?」
「それはできないぞよ。われはもうすぐ宇宙船に帰らなければならんぞよ」
「えーっ、もういっちゃうの?」
「用が済んだらさっさとさよならよ、われは忙しい身なもんで、汝らと遊んでいるわけにはいかんぞよ。宇宙船のほうで呼び戻してくれるのを待っているんじゃよ」
「でも、まだ僕たち君のことが必要かも知れないよ」
「ほれほれ、お呼びがかかったぞよ、じゃね汝ら、お気をつけて、また会う日まで会えるときまで、さようなら~」

ニュートは現れた時のようにシュクシュクシュクという足音を立てて、でも今度は後ずさりしながら消えていってしまった。
ニュートが居なくなって、二人は急に心細くなった。
「変なやつだったけど、居なくなると淋しいな」
「ほんの短い間だったけど、可愛いい仲間だったのに...」
だが、二人は淋しがっている暇はなかった。
どこから現れたのか、子供たちがぞろぞろと、二人の後をついてきたからだ。

「ねえ、どこから来たの? 何しに来たの? どこへ行くの?」
子供たちは口々に聞いた。
「僕たちは旅をしているんだ。今夜あそこの村で、どこかに泊めてもらえないかなと思っているんだけれど」
すると一番年上らしい子が言った。
「僕たちはあの村のものじゃないんだ。森の中で暮しているんだよ」
「ちゃんとした家はあるの?」
ピロンは心配そうに聞いた。
「僕たちは家はいらないんだ。夜も外で寝るんだよ」
パドラスは前方に見えている家々を眺めて、あのうちの一軒に泊めてもらうほうが良さそうだなと思った。
男の子は、まるで、パドラスが考えたことが聞こえたみたいに答えた。
「あいつらはちゃんとした家を持っているよ。頼めばきっと泊めてくれるさ。だけど、あまり楽しくはないと思うよ」
楽しくなくても、一夜の宿を貸してくれるなら、洞穴や木の下で寝るより良いとピロンは思った。

すると小さな子たちが声をそろえて言いだした。
「そうだよ、面白くないよ。
それより僕たちと一緒においでよ。
面白いことして遊ぼうよ。
食べ物だっていっぱいあるんだよ。
いくら食べても怒られないよ」
パドラスもピロンも、朝から乾燥パンしか食べていなかったから、お腹がものすごく空いていて、それを聞くと、二人のお腹がグーッと鳴った。
「パドラス、あの家の人たちは歓迎してくれるかしらね? 
ちゃんと夕食を出してくれると思う?」
「それは解らないよ、こっちから何か食べさせて下さいなんて頼めないから、もし何も食べ物を出してくれなかったら、また乾燥パンを食べるしかないよ」
ピロンは良いことを思いついた。
「ねえ、パディ、この子たちと一緒に行きましょうよ、食べ物をくれるようだから。そして食べた後、あそこの家に行って泊めてもらうことにしたらいいじゃない?」
「そうだね、泊まるところは後で考えることにして、まず腹ごしらえだね。
行ってみることにしようか」
そうと聞いて子供たちは大喜びした。
みんな気のいい、楽しい子供たちだった。
「こっちだよ」
子供たちは、村に入る前に左にそれて林の中へと入っていった。

更新日:2014-09-25 12:22:02

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聖なる木たちのものがたり・第一話・パドラスとピロンの冒険