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ふたつの時間。2
2014年08月12日(火) 23時00分00秒
テーマ:大まお空想小説






「忘れ物ないか?・・」、

玄関で靴を履く僕の背中に優しい声が響く。



「うん、そんなに荷物いらないし・・」、

靴紐を結ぶ振りをして俯いたままで答える僕。



「そうだな、なんでも買えるしな・・」、

くすっと笑ったその声が、なんだか切なそうで、

僕は振り返れなかった。




「よし、じゃあ、行こうか・・」、僕がドアノブを掴むと


「あ、エアコン消したっけ?」、彼が部屋の奥へと向かった。


「大丈夫、僕が消したから・・」、そう言うと彼が振り返る。


「えっと、ガス栓は?・・」、僕を見つめる。


「締めたよ・・ちゃんと・・」、笑う僕。


「ベランダの鍵は・・」、笑う彼。


「締めました・・」、わざとらしく溜息をついて見せると


「じゃあ・・・」、何かないかと考える彼。


「忘れ物は、ここでしょ?・・」、僕が指をさすと


「・・・そうだな・・・」、今にも泣きだしそうな顔で僕を見た。



ゆっくりと僕の前にやって来た彼は、そっと僕を抱き締めて、

僕の唇を見つめる。




「・・行ってきます・・」、

そう動いた僕の唇を、彼の唇が優しく塞ぐ。




「気をつけてな・・」、ゆっくりと離れた彼の優しい声。


僕はニッコリ笑って、彼の手を掴んだ。




「行こう!!」、ガラガラと鳴るスーツケースの音。


僕達は一緒にその部屋を出た。








これから僕達が向かうのは、僕の家。


お盆を家で過ごしてから旅立つ僕は、彼を僕の家族に紹介する。



僕の大事な人なんだと・・・。








「胃がいたい・・・」、エレベーターの中で、お腹をを抑えて

目を閉じ、なにやらブツブツ言ってる彼がとても可愛く見えて

繋いでいる手に、ちゅっとキスをすると




「余裕だな・・・」、彼は僕を抱き寄せる。



「うん、だって僕の家族だもの、絶対に反対しないよ!」、って

ニッコリ笑って抱き付くと



「だといいけど・・・」、また、はあ~っと大きなため息をついた。








今までは、ただの先輩だった。





ちょくちょく泊まらせてもらったり、いろんな事を教えてくれたり

酔った僕を送ってくれたり、一緒の仕事の時は迎えに来てくれたり

僕の家族は、本当にいい先輩だって、信頼している。





だから、旅立つ前にキチンと僕らの事をわかって欲しくて、今日

話しがあるからと、僕が連絡を入れた。






「息子さんを俺に下さい!」、

何度も何度も、繰り返し練習していた言葉を、またブツブツと言って

一人で赤くなってる姿に、嬉しくて涙が滲む。




「なに泣いてんだよ・・・」、ギュッと抱きしめられて


「泣いてないもん・・・」、その胸に顔を埋めると


「泣くなよ・・」、僕の髪に優しくキスをくれた。


小さく頷いて、涙を彼のシャツに押し付けると


”チン”


エレベーターが僕の家の、階に到着した。







「よし!!」、

ネクタイを直した彼は僕の手をしっかりと握る。



「うん!」、

僕も大きく頷いてエレベーターを降りると




彼の部屋から連れて行く、僕の荷物の音がガラガラと

響いた。








更新日:2014-08-16 21:46:29

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