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悲しみのラテーニャ
ここルシファーにある荒野で私はネスツ、それにシルキーや裁木と共に四面組み手を行う。一見すると乱戦の様相。だが、ルールがある。それは一分ごとに組み手する物を変える事。例えば最初がネスツなら一分後にシルキー或は裁木に変える。更に一分後にはネスツか二戦目で選ばれない方に変える。そうする事で実践を肌で掴み、あらゆる戦局への対応を図る。弱点としては組み手である以上は実戦のような緊張感は得られない。いくら容赦のしない連中が揃おうとも。
「またお前か、ファース!」組み手を始めて五十五分経過。私は二十回もシルキーにあたる。
「良く当たるなあ、共気」
「ネスツ。我が友よ、頼むから負けを認めるのだ」
シルキーとの勝負は9:8:3で私に軍配が上がる。勿論、五十五分から五十六分までに繰り広げた戦いでは引き分けに終る。その数も追加してだ。
「八百長を認める法律もある、ネスツ」
「八百長する敵が果たして居るか」
「オイ、次は……」「残念ながら私がお相手しましょう」ファースとあたる機会はないな、シルキー。
「何時戦っても追いつけないな、お前には」
「ファース殿下には負けます。只、戦いの場では軍配が上がるだけでして」
ネスツとの組み手は何時だって命が危うい。政治の世界に入ったせいで腕が鈍ったのではない。ネスツがあまりにも高い壁だから下手によじ登れば墜落は免れん。そんな事もあって十八戦中白星は僅か二つ。残りは黒星か引き分け。
「まだまだですね。それでは拙の本気は出せまい」
「法に雁字搦めだな、裁木!」
「検事とはルールに縛られる存在」
五十七分経過。そろそろ……の時にフェンサイロッド・ロバッツが現れた。
「何の用だ、エザリアの犬!」
「相変らず無礼な男ね、あなた! あなたに用はない……あるのはファース殿下!」
「決まったか、結婚式の日は」
「もう御存知のようですね。ですがこの情報は」私に知らない情報が……「ラテーニャ殿下が『白虎門』に入りました」
「ああ、それがどうした?」
「いえ、知ってるなら良いです。只、『ビリーも同行している以上は何とも嫌な予感がする』とサイッバが言ってたので」
「嫌な予感……先に裁木の考えを聞こう」
「ビリー・ブルースブラッドには死相が見えた。それ以上は立場として口を噤む」
「死相……オイ、裁木! 何とか言えよ、何だよ死相って!」
「ファース殿下。もしやビリーの身に何かがあったらどうお考えですか?」
「ビリーが死ぬのは予定通り。だが、死ぬ場所が問題だ。確か『白虎門』と申したか?」
「ええ、それの何が問題で?」
「まさかラテーニャに秘められた力が解放するとか……」「あいつには才能はない。只必要最低限の護身術を身に付けてるだけ」それは問題じゃない。
「まさか認めるというのか、『白虎』自身が!」
「察しが良いな、フェンサイロッド。もしもその近くでビリーが死ぬようだったらラテーニャの感情バランスはどう成るか?」
「オイオイ、『白虎』と言ったら走り出したら止まらないぞ! そんな神様がラテーニャの悲しみに呼応するとしたら大変な事態に成るぞ!」
「正解だ、シルキー。まあ、何も杞憂に終る」
「楽観出来る問題じゃありません、ファース殿下!」
「何処にそんな自信があるんだよ、てっめえ!」
「胸ぐらを掴むな、シルキー……」「何だと、ネスツ!」全くこの二人のやりとりは日常的すぎて私は困る--慣れとはかくも恐ろしい状態。
「鎮まれ、二人! 何故私がそう言ってのけるか……信じろ、ラスター達四人を!」
「信頼なさるのですね、私の心で」
「いや公の心だ、裁木」彼らなら『白虎』を止め、ラテーニャを救出する。
「赤羽涼香を信じてるんですね、ファース殿下は」
「あいつか……なら大丈夫で良いか、ネスツ?」
「フ」
結婚式と建国は間近に迫る。それまでに生き延びろ、ラスター。
「またお前か、ファース!」組み手を始めて五十五分経過。私は二十回もシルキーにあたる。
「良く当たるなあ、共気」
「ネスツ。我が友よ、頼むから負けを認めるのだ」
シルキーとの勝負は9:8:3で私に軍配が上がる。勿論、五十五分から五十六分までに繰り広げた戦いでは引き分けに終る。その数も追加してだ。
「八百長を認める法律もある、ネスツ」
「八百長する敵が果たして居るか」
「オイ、次は……」「残念ながら私がお相手しましょう」ファースとあたる機会はないな、シルキー。
「何時戦っても追いつけないな、お前には」
「ファース殿下には負けます。只、戦いの場では軍配が上がるだけでして」
ネスツとの組み手は何時だって命が危うい。政治の世界に入ったせいで腕が鈍ったのではない。ネスツがあまりにも高い壁だから下手によじ登れば墜落は免れん。そんな事もあって十八戦中白星は僅か二つ。残りは黒星か引き分け。
「まだまだですね。それでは拙の本気は出せまい」
「法に雁字搦めだな、裁木!」
「検事とはルールに縛られる存在」
五十七分経過。そろそろ……の時にフェンサイロッド・ロバッツが現れた。
「何の用だ、エザリアの犬!」
「相変らず無礼な男ね、あなた! あなたに用はない……あるのはファース殿下!」
「決まったか、結婚式の日は」
「もう御存知のようですね。ですがこの情報は」私に知らない情報が……「ラテーニャ殿下が『白虎門』に入りました」
「ああ、それがどうした?」
「いえ、知ってるなら良いです。只、『ビリーも同行している以上は何とも嫌な予感がする』とサイッバが言ってたので」
「嫌な予感……先に裁木の考えを聞こう」
「ビリー・ブルースブラッドには死相が見えた。それ以上は立場として口を噤む」
「死相……オイ、裁木! 何とか言えよ、何だよ死相って!」
「ファース殿下。もしやビリーの身に何かがあったらどうお考えですか?」
「ビリーが死ぬのは予定通り。だが、死ぬ場所が問題だ。確か『白虎門』と申したか?」
「ええ、それの何が問題で?」
「まさかラテーニャに秘められた力が解放するとか……」「あいつには才能はない。只必要最低限の護身術を身に付けてるだけ」それは問題じゃない。
「まさか認めるというのか、『白虎』自身が!」
「察しが良いな、フェンサイロッド。もしもその近くでビリーが死ぬようだったらラテーニャの感情バランスはどう成るか?」
「オイオイ、『白虎』と言ったら走り出したら止まらないぞ! そんな神様がラテーニャの悲しみに呼応するとしたら大変な事態に成るぞ!」
「正解だ、シルキー。まあ、何も杞憂に終る」
「楽観出来る問題じゃありません、ファース殿下!」
「何処にそんな自信があるんだよ、てっめえ!」
「胸ぐらを掴むな、シルキー……」「何だと、ネスツ!」全くこの二人のやりとりは日常的すぎて私は困る--慣れとはかくも恐ろしい状態。
「鎮まれ、二人! 何故私がそう言ってのけるか……信じろ、ラスター達四人を!」
「信頼なさるのですね、私の心で」
「いや公の心だ、裁木」彼らなら『白虎』を止め、ラテーニャを救出する。
「赤羽涼香を信じてるんですね、ファース殿下は」
「あいつか……なら大丈夫で良いか、ネスツ?」
「フ」
結婚式と建国は間近に迫る。それまでに生き延びろ、ラスター。
更新日:2014-10-29 20:47:51