• 100 / 319 ページ

ルナの落ちた地で闘争は始まる 後篇

 ラテーニャ殿下を護衛するのは四人。私とメラーネは当たり前のように居るが、パイエアはもう居ない。だから彼女に変わってメラーネがリーダーの代わりを務める。後日、殿下が新しいリーダーをお決めに成る。ライゼルの方だが、ロコアンビの方で忙しい。何でもトランゼ殿下が恩赦した事を受けて地元で抗議デモを連日のように起こす。それを収拾する為に奴はしばらくの間、ラテーニャ殿下の下へ戻らないそうだ。あの男も口では金銭面の事で五月蠅く言うが、どこまで行っても損得勘定で動けるほど冷酷に成れない、か。

 話を戻す。今は亡きパイエアとロコアンビから離れられないライゼルの代わりとしてローリナ殿下が幽閉中で行動を制限されてる内の一人……ベティ・シュントレイが加わる。理由は彼自身、『梁山泊』のある人物に用があるそうな。他にはキリツグ殿下との話し合いでアルタード・オルトゥスが加わる。理由は現地に滞在するウィアザド・ケルバーンに診断内容を尋ねるそうな。

 そして、我々はラスター殿下達が連れて行かれた『シルクロード』までタンバードで行く事が出来た……どうゆう事だ? 我々と帝国は戦争状態が悠久に続くはずなのにこんなにもあっさり侵入させるとは。皇帝バサラの身に何かあったのか? いや考えるのは止めておこう。私は只、ラテーニャをお守り……いくら心の内でもこんな無礼は止めておこう。

 とにかく我々はその第五ゲートにある舞踏館にある指定された降り場にタンバードを降ろす。ここから先は自力でライブ王国に帰らなくては成らないな。何故なら指定された以上は帝国はいざと成れば接収が出来る。それくらい相手の陣地は我々にとって不利なのだからな。

 ここが舞踏館か。そして空気は殺伐してるか? いや違う。何かが接近する。誰だ……大きさは私よりも五、六センチ上か? そして青竜刀を身に付けており、少々間違った真面目さを漂わせる。その男は殺気を出さず、こう切り出す。

「ようこそセティスジュ帝国へ。俺はラッサン殿下に仕える最強の男ファウルム・チャン。おや、君は盲目最強と謳われるビリー・ブルースブラッドかね?」

「相手にしないで、ビリー。この男は頭が少々おかしいから」

「いや、話し合わないとわからない事もあります。
 あ、そうですね。私はビリー・ブルースブラッド。ラテーニャ・ウィルツェンを守る者。良く気付きましたね、私が盲目である事を」

「どうも顔の向き、それに鼻の動き、そして耳朶の揺れ……最強とはそうゆう観察力に優れる物だ」

「安易に最強言わないで」

「君がメラーネ・シルレスターかね。魔術師最強を目指すマドモアゼルよ」

「はいはい、最強最強」メラーネにとっては苦手な相手か。

「ところでチャン殿」

「ファウルムで良いぞ、最強の医師アルタード・オルトゥスよ……おや、ラテーニャ殿下の連れに君みたいなのが居るのか? 他にも知らない顔が一人」

「やっぱ知ってるんだ、アルタードと私ベティ・シュントレイはラテーニャ殿下の直属護衛じゃないよ。代わりではあるけどね」

「確かパイエア・プースティーとライゼル・ラディスタ。どうしましたか?」

「パイエアは……」ラテーニャ様は必死に誤魔化そうとするが、私は敢えて口出しする。「パイエアは先祖と一緒に暮らしてる」

「そうか、よくわかった。あの世界でフードファイター最強を目指すか!」

「どうしてそんな無礼を!」

「申し訳ありません! 嘘を言っては彼女の為に成らないと思い、口を出しました!」

「……まあいいわ。それからライゼルについてだけど、金銭面での折り合いが付かず、置いてきたわ」

「傭兵という肩書きは本当なんですね、最強を目指す者が守る対象にごねるとは何事ですか!」

「へえ、ファウルムとしては守る事は最強に繋がるんだねえ」

「それが正しい事であろう。誰かを守るとは即ち、自らを不利に導く。その状況で敵を倒し続けるという道は即ち最強の道であろう」

「それは少し違うな、ファウルム殿」

「ほお、最強である俺に意見をするとは」

「最強の道とはあなたの言った事で正しい、が言葉が足りない。付け加える点を申すなら誰かを守りながら相手を殺さず、無力化し、改心させる道を言う。反論は?」

「まさか議論で一本取られるとは……最強の道は険しいぞ」

 今の言葉……よもや私自らが実践しようと試みるなぞ夢にも思わないだろう!

更新日:2014-10-29 19:08:05

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

二つを彷徨う魂 巻の三 逸した二人は出会う