• 55 / 78 ページ

君と過ごした最後の夏

ミノの運転する車で向かう、ソナの家。

明日から1年近くロンドンに留学するとソナから連絡があったのは一昨日のこと。
あまりに急な話にミノもテミンも驚いて、仕事の合間に車を走らせている。

家に行けば、いつもと変わらない笑顔で迎えてくれたけれど。

「留学って、どうしてこんな急に…」

ミノは突然のことに焦りを隠せていない。

「前にも話したでしょ?留学しようと思ってるって。」

「でも、やっぱりやめたって言ってただろ?」

「そうなんだけど、急に行けることになったの。調べてみたら色々向こうで入学前にやらなきゃいけないことがあるみたいだから、明日発つことになって。」

驚かせてごめんね、と。
落ち着いているソナに、ミノは戸惑ったように眉を下げた。

けれど、これまでだって海外での仕事のためにソナを待たせたことは何度もあったし、酷い時は仕事先の国に着いてから数日留守にすると連絡したこともある。

「…でも、行きたいって言ってたもんな。行けてよかったと思わないとか。」

冷静になって、ソナの応援をするのが一番だと思い直した。

一方のテミンは。

「ソナ…」

ミノの後ろから、そう小さく声を掛けて。
その瞳は、心なしか潤んでいる。

「テミナ、ミノオッパの言うことちゃーんと聞くのよ?」

姉のように微笑んで。
ソナはそっと、テミンを抱き締めた。

「…しばらく、会えないから。」

本当は、もう二度と会うことができない。
それをソナが知っていることを、テミンは知らないから。

「ん…」

悟られないように、感情を押し殺してぐっと奥歯を噛み締める。

自分の命の期限を知らないテミンは、不安げにソナの背中に手を回して。
これで最後になるかもしれない、と。
ソナの羽織っているカーディガンの裾を握り込んだ。

初めての、同じ年の女の子の友だち。
人は彼女を恋敵だと言うのかもしれないけれど、決してそんな関係ではなくて。
大好きで、大切で、かけがえのない人だった。

「2人とも、一生会えないわけじゃないんだから。そんな必死になることないだろ?」

何も知らないミノの声に促されるように、静かに体が離れる。

オニュの想いを汲み取って、少し早めた渡英の期日。
ソナは、テミンの手をぎゅっと握った。

「テミンには、オッパが側にいるから。」

だから、大丈夫。
優しく微笑むソナを、テミンは縋るように見詰める。

別れたら、最後。
きっと、この笑顔を見ることはできない。

「…ソナ、元気でね。」

そう言うのが、精一杯だった。


更新日:2014-08-13 01:32:41

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook