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「カナダGP決勝」

【幕切れ】
第4戦カナダGPの決勝は、デビュー戦ながらポールポジションからスタートし、尚且つ一度最下位にまで下がってからもう一度トップに追いつくという離れ業をやってのけたアレクサンダー=フォン=ランドルの一人舞台と化していた。
このようなパフォーマンスを前にしては、第3戦での幻の初優勝がこの第4戦で現実の優勝になりそうな勢いのリィン=アドヴァンの快走もすっかり霞んでしまっていた。
今、レースを見る者の心を魅了しているのは、ランドルの走りに間違いなかった。
そのランドルの前にクリムゾン=ターナーとフレイズ=アンダーソンが立ち塞がる。

「そこだっ!」
ランドルがターナーを抜きにかかる。しかしそのラインをフレイズが塞いでいた。
「何ぃっ!?」
慌てて減速する。
「なるほど、どうやら先輩方はボクのことがお嫌いらしい」
示し合わせたわけではないだろうが、スレイブニル FG-04とシュトラーレン HPS-042は連携してローゼン イシュザーク XXX-00のラインをブロックする動きを見せていた。
「さて、どうしたものかな」
さしものランドルもサイバーフォーミュラの現役ドライバーの中でもトップクラス2人に連携されたのでは、容易に道を切り開くことが出来そうもなかった。
だが、いくらなんでもライバルチーム同士。レースをやっている以上、どちらかが前に立とうとすることは必然であり、レースも終盤の今、そのチャンスは近いと言えた。だがそれを待っていたのでは、トップのリィンを捉えるのが困難になってくる。
「それに、待つのはボクの性に合わないしな」
2台の連携の隙を突く。それはまさに針の穴を通すような、まさにミリ単位のドライビングが要求される。さすがにランドルの表情からも笑みが消え、一転してそれは厳しいものとなった。
天才ランドルの本気モードが発動された。

だが異変はそれよりさらに前方で起こっていた。
「3速の反応がない・・・?!」
リィンは苦悶の表情を浮かべた。ギアが抜けると言うことは、すなわちペースダウン意味する。しかも中低速コーナーが連続する森林区間での使用頻度の高い3速ギアが使えないというのは大きなハンデであった。
「くっ、リバーダ、2速を高速よりに4速を低速よりにギア比を変更、シフトはセミオートマ仕様にして3速ギアがない分をカバーするんだ」
『だがあまり回転数を上げるとエンジンの負担が増す。ニューエンジンがそれに耐えられるかは保障できない』
「それはオレがカバーする!ヤルしかないんだ、いくぞっ!」
初優勝が懸かっているのだ、引く訳にはいかない。リィンはステアリングを握りなおした。

リィンのトラブルは、ピットでも確認していた。
「今からじゃミッションプログラムを書き換えてる暇はないわ。リィン君の腕に頼るしかないわね」
マシンの異常を見抜けなかったことに、クレアは歯軋みする思いだった。残り周回が少ないのがせめてもの救いではあったが、それもいつまで続くのか・・・。
「監督、リィンのアストラがさっきから2速を使っていません」
悲鳴にも似た報告が入る。テレメーターをチェックしているスタッフからだった。
それには何も答えず、クレアは目を伏せた。3速ギアに続いて2速ギアまでもが沈黙するとは・・・。状況は悪化の一途であった。
万事休す、と思われた時、
「な、なんだコレ?」
再び声が上がった。しかし今度は様子が違う。
クレアはテレメーターを覗き込んだ。
「こ、これは・・・!」
そこにはリィンの超絶なアクセルワークが表示されていた。
ギアを4速でホールドし、後は細やかなアクセルワークでエンジンの回転数の低下を最小限に留めつつ、コーナーをクリアしていた。大胆にかつ繊細に―――。
「凄い、こんな走りが出来るなんて」
ありすの口から溜め息混じりに声が漏れる。
ギアトラブルを抱えながらも、リィンのラップタイムは思ったほど落ちていない。マシンの劣勢をドライバーの腕がカバーしていることは明白だった。
「さすがだわ。このマシンコントロール能力の高さがあればこそ、この前のような雨のレースでも速さを発揮できる訳ね」
クレアもリィンのドライビングに賞賛を惜しまなかった。
「リィン君なら、このレース何とかなるかもしれないわ」
消えかかっていた希望の光が、再びその強さを増していくのを実感できた。
ありすは、もうジッとしていられない。インカムに向かって大声を張り上げた。
「負けるなリィン!ワタシがついてるわっ!」
その目の前で、スゴウ アストラ FAS-14がコントロールラインを通過して行った。

更新日:2014-06-13 15:29:18

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