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「良かったじゃねぇか坊主」
「・・・・」
もう坊主じゃないのに今だに俺をそう呼ぶのは、隣の定食屋の主人で父とも仲が良かった関田さんだ。
もう50も半ばなくせに一人で店を切り盛りしてる。だいぶ前に奥さんに先立たれ、俺と一個違いの娘は嫁に行って3年たつ。
幼い頃一緒によく遊んだ麻里奈ちゃんとは結婚の約束までしたのに、彼女はあっさりと公務員の元に嫁いでしまった。
別に付き合ってた訳じゃねぇけど。むしろ思春期の頃、暴走族に入った俺を冷たい目で見ていた。
俺の好物のレバニラ炒めを咀嚼し飲み込んでから言った。
「 おやっさんにも試食来てほしいんだけどいい?」
「んだよ、おまえさんよ。舌に自信がねぇのかい?」
「いや、ちげーよ。舐められたくねぇんだ」
俺は正直にそう言った。おやっさんに意地張っても仕方ねぇ。
今日の秋山さんの目を見りゃわかる。あの目は俺で大丈夫なのか?と言っていた。目は口ほどに物を言うって訳だ。
それに俺は答えなきゃならねぇ。
とりあえずは心配すんなってよ。
「・・・仕方ねぇな、親父にも頼まれてっからな」
「わりぃな」
俺はくわえ煙草で定食屋せきちゃんを出た。
夜になり車の往来が少なくなった前の国道を横断して、振り返ってペンション黒猫の方を見た。
今は暗闇に包まれたその和風の建物は、中央にあるロビーのライトの部分だけ暖かい光を放ってる。俺はここからの景色が好きだ。
ロビーだけ借金してでも大きな窓にしたのは正解だったと思う。帰りたくなるような、入ってみたくなるようなそんな温かみのあるペンションにしたかった。
ふと誰かの視線を感じて振り返った。
そこには駐車場があるだけだ。夏は行列が出来るほどの大きな駐車場も、シーズンオフのこの時期は閑散としている。
暗闇を見回すが誰もいない。
本当はいるのはわかってる。でもここにいれば見えない、見なくても済むのだ。
俺は帰るために国道を見て車の往来を確認した。足を踏み出した時に猫の鳴き声が聞こえた気がした。
「良かったじゃねぇか坊主」
「・・・・」
もう坊主じゃないのに今だに俺をそう呼ぶのは、隣の定食屋の主人で父とも仲が良かった関田さんだ。
もう50も半ばなくせに一人で店を切り盛りしてる。だいぶ前に奥さんに先立たれ、俺と一個違いの娘は嫁に行って3年たつ。
幼い頃一緒によく遊んだ麻里奈ちゃんとは結婚の約束までしたのに、彼女はあっさりと公務員の元に嫁いでしまった。
別に付き合ってた訳じゃねぇけど。むしろ思春期の頃、暴走族に入った俺を冷たい目で見ていた。
俺の好物のレバニラ炒めを咀嚼し飲み込んでから言った。
「 おやっさんにも試食来てほしいんだけどいい?」
「んだよ、おまえさんよ。舌に自信がねぇのかい?」
「いや、ちげーよ。舐められたくねぇんだ」
俺は正直にそう言った。おやっさんに意地張っても仕方ねぇ。
今日の秋山さんの目を見りゃわかる。あの目は俺で大丈夫なのか?と言っていた。目は口ほどに物を言うって訳だ。
それに俺は答えなきゃならねぇ。
とりあえずは心配すんなってよ。
「・・・仕方ねぇな、親父にも頼まれてっからな」
「わりぃな」
俺はくわえ煙草で定食屋せきちゃんを出た。
夜になり車の往来が少なくなった前の国道を横断して、振り返ってペンション黒猫の方を見た。
今は暗闇に包まれたその和風の建物は、中央にあるロビーのライトの部分だけ暖かい光を放ってる。俺はここからの景色が好きだ。
ロビーだけ借金してでも大きな窓にしたのは正解だったと思う。帰りたくなるような、入ってみたくなるようなそんな温かみのあるペンションにしたかった。
ふと誰かの視線を感じて振り返った。
そこには駐車場があるだけだ。夏は行列が出来るほどの大きな駐車場も、シーズンオフのこの時期は閑散としている。
暗闇を見回すが誰もいない。
本当はいるのはわかってる。でもここにいれば見えない、見なくても済むのだ。
俺は帰るために国道を見て車の往来を確認した。足を踏み出した時に猫の鳴き声が聞こえた気がした。
更新日:2014-05-02 16:24:17