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葵サイド
昨日は久しぶりに運転して少し緊張したが、都心の方と違って行きかう車も少なく、なんとかなりそうだ。近くの市場や昨日行ったホームセンターなら一人で行けるだろう。そう判断した俺は、さっそく明日の朝に車を使わさせてもらえるよう今朝お願いしたばかりだ。
チェックインの時間前に、鳥居の下に石畳を敷いてしまいたいと言う千尋さんの手伝いを申し出たが、断られてしまった。
理由は俺が料理人だからだ。
そこまで気にしていたら何も出来ないと言うと、GWまではどうか大事にしてくれと頭を下げられた。なので仕方なく俺は昼食を作っているところだ。
昼食が出来て彼と櫂君を呼びに行こうと厨房を出ると、入口に親子が立っていた。
「すみません」
「はい」
「あのハープは触らせてもらえるんですか?」
チェックインの時間には早いので、近所の人だろうか?
「あ、たぶん平気だと思うんですが・・あ、千尋さん」
外からたまたま戻って来た彼に事情を説明すると、わかったと笑顔で返される。どうやら親子は近所に住んでいて、噂を聞きつけて来たようだった。
「弾いてみたい?」
「・・・うん」
恥ずかしそうに母親の後ろに隠れながら、言うのは幼稚園くらいの女の子だ。
千尋さんが、白いカバーを外すと大きなハープが姿を現した。ハープってこんなにデカイのかと、俺も子供の隣で腕組みをしてマジマジとそれを見た。
おいで、と千尋さんが子供に手招きすると、彼女は喜んでそのハープのそばに行った。
千尋さんが指で弾いてみせると、ポロロンと綺麗な音がする。それを見た女の子は小さな指で彼の動きを真似るようにして、綺麗な音を楽しんでいる。
見ていると自分も触ってみたい衝動に駆られる。あの弦はやはり硬いのだろうか?子供が弾けるくらいだからベースの弦よりは硬くないだろうが、どういう感触なのかとても気になる。今度機会があったら千尋さんに言って触らせてもらおう。
そんなことを考えていると、千尋さんが談話室の椅子に座って、ハープを肩に乗せるように構えた。
流れるような指先からハープ独特の美しい音が響く。独学だと言っていたわりには上手い気がした。なんとなしに見た、長い指先と長い睫毛が半分落ちた瞳から目が離せない。彼が外国の女の子のように見えるのは、大きな瞳もそうだが、緩くカールしている薄茶の細い髪のせいもある。こうしてハープなんて弾いてると、どこかの王子様のようだ。
この親子だってハープの音に聞き入りながらも、千尋さんをうっとり見つめてるように見える。そう、俺と同じように。胸がずきりと小さく痛んだ。まさか恋したとでも言うのか。
いくらなんでも惚れっぽすぎるだろ、俺。やめとけ、相手は男だぞ?と自分に言い聞かせる。
今まで好きになった人は全員女の子だ。でも全員こうして一目惚れしたのだ。それくらい俺は惚れっぽい。軽いと思われたくないから人にペラペラ言わないし、その都度想いを伝える訳でもないので、俺のこんな面を知っているやつはたぶんいないのだが。
本当にこの人は厄介な店長だ。頼むから俺をこれ以上そそのかさないでほしい。もしうっかり手を出して信頼関係が崩れたら困る。こんな関係女だってややこしくて面倒なのに、男なんて論外だ。
なので彼に対しては誠実であろうと決めている。
どうかそれを貫かせてほしい。そう思って俺はゆっくりその場を離れた。
葵サイド
昨日は久しぶりに運転して少し緊張したが、都心の方と違って行きかう車も少なく、なんとかなりそうだ。近くの市場や昨日行ったホームセンターなら一人で行けるだろう。そう判断した俺は、さっそく明日の朝に車を使わさせてもらえるよう今朝お願いしたばかりだ。
チェックインの時間前に、鳥居の下に石畳を敷いてしまいたいと言う千尋さんの手伝いを申し出たが、断られてしまった。
理由は俺が料理人だからだ。
そこまで気にしていたら何も出来ないと言うと、GWまではどうか大事にしてくれと頭を下げられた。なので仕方なく俺は昼食を作っているところだ。
昼食が出来て彼と櫂君を呼びに行こうと厨房を出ると、入口に親子が立っていた。
「すみません」
「はい」
「あのハープは触らせてもらえるんですか?」
チェックインの時間には早いので、近所の人だろうか?
「あ、たぶん平気だと思うんですが・・あ、千尋さん」
外からたまたま戻って来た彼に事情を説明すると、わかったと笑顔で返される。どうやら親子は近所に住んでいて、噂を聞きつけて来たようだった。
「弾いてみたい?」
「・・・うん」
恥ずかしそうに母親の後ろに隠れながら、言うのは幼稚園くらいの女の子だ。
千尋さんが、白いカバーを外すと大きなハープが姿を現した。ハープってこんなにデカイのかと、俺も子供の隣で腕組みをしてマジマジとそれを見た。
おいで、と千尋さんが子供に手招きすると、彼女は喜んでそのハープのそばに行った。
千尋さんが指で弾いてみせると、ポロロンと綺麗な音がする。それを見た女の子は小さな指で彼の動きを真似るようにして、綺麗な音を楽しんでいる。
見ていると自分も触ってみたい衝動に駆られる。あの弦はやはり硬いのだろうか?子供が弾けるくらいだからベースの弦よりは硬くないだろうが、どういう感触なのかとても気になる。今度機会があったら千尋さんに言って触らせてもらおう。
そんなことを考えていると、千尋さんが談話室の椅子に座って、ハープを肩に乗せるように構えた。
流れるような指先からハープ独特の美しい音が響く。独学だと言っていたわりには上手い気がした。なんとなしに見た、長い指先と長い睫毛が半分落ちた瞳から目が離せない。彼が外国の女の子のように見えるのは、大きな瞳もそうだが、緩くカールしている薄茶の細い髪のせいもある。こうしてハープなんて弾いてると、どこかの王子様のようだ。
この親子だってハープの音に聞き入りながらも、千尋さんをうっとり見つめてるように見える。そう、俺と同じように。胸がずきりと小さく痛んだ。まさか恋したとでも言うのか。
いくらなんでも惚れっぽすぎるだろ、俺。やめとけ、相手は男だぞ?と自分に言い聞かせる。
今まで好きになった人は全員女の子だ。でも全員こうして一目惚れしたのだ。それくらい俺は惚れっぽい。軽いと思われたくないから人にペラペラ言わないし、その都度想いを伝える訳でもないので、俺のこんな面を知っているやつはたぶんいないのだが。
本当にこの人は厄介な店長だ。頼むから俺をこれ以上そそのかさないでほしい。もしうっかり手を出して信頼関係が崩れたら困る。こんな関係女だってややこしくて面倒なのに、男なんて論外だ。
なので彼に対しては誠実であろうと決めている。
どうかそれを貫かせてほしい。そう思って俺はゆっくりその場を離れた。
更新日:2014-05-21 22:20:23