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心配そうな秋山さんに、最後大丈夫だと言って、俺は階段を登って自室へと向かった。
部屋に入り仏壇の引き出しから、父が肌身離さず持っていたお守りを取り出した。
元は紺色だったであろうそれは、角が擦り切れて白くなっていて、真ん中に白虎が刺繍されている。
そのお守りにはシルバーの鎖が取り付けてあり、父がしていたように俺も首から下げた。
枕元の電気だけつけっ放しにして、ベットに横になり、包丁の入ったケースを布団の上に置いて両手で掴んだ。
目を閉じると、疲れもあってすぐに睡魔が襲ってきた。
そして浅い眠りに入った時、体はそのままに俺の脳だけが目覚めた。
・・・暗闇に白虎が見える
その神々しい大きな生き物は、ふせの姿勢で俺をジッと見つめていた。時々そいつが瞬きするので、黙っていても生きているのだとわかる。
夢なのに異常にリアルだった。俺の意識はしっかりしていて、まるで起きて幻を見ているようだ。
しばらくするとその白虎がゆっくりと起き上がった。そして長い尻尾を見せて、後ろ側へ歩いて行ってしまう。
その白い影はだんだんと薄くなっていき、同時に体が痺れてきた。
もしかしたらお守りの力はあてに出来ないと言うことか。
マズイと思って意識を浮上させて、必死に手足を動かし金縛りを解こうとしてみる。腕の関節は多少動くものの、その下のケースを持った手はまったく動かなかった。そのうちにどんどん金縛りが強くなって不快な雑音が頭に鳴り響いた。
俺は恐怖に負けないように佐藤さん、佐藤さん!と叫び続けた。
そのうちに何かが見えてきた。
最初はぼんやりと、何か手のような物が見える。だんだんクリアになってきて、包丁で何か切っているのだとわかった。これはきっと刺身だ。
俺が包丁を持って魚の切り身を丁寧に等間隔に切っている。
いや、これは俺じゃない。佐藤さんだ。
一通り切り終わると視線が横にずれて、そこにはガラスの器のようなものがあった。ツマの上に切ったそれを綺麗に並べている。いくつかの器に並べて、また切って、並べてを繰り返した。
時々視線が大きく動き、鍋の中の汁をおたまですくって味見をしたり、白い帽子の誰かに何かを言ったりしている。
音は無く、まったくの無音の世界だった。
たまに佐藤さんの名を呼んで、問いかけてみるが聞こえないのかまったく反応してくれない。
彼はただ、ひたすら料理を作り続けていた。
そして俺はどうすることも出来ないでいる。
頭だけは妙に冴えているのに、俺はただ佐藤さんの見たいその映像だけを見せられていた。
自分がどうゆう状況にいるのかも、不思議だが冷静に理解出来た。
俺は今佐藤さんに体ごと乗っ取られているのだ。つまり彼が自ら出て行ってくれるまで、俺は何も出来ない。
対等に会話なんて出来るレベルじゃないのもわかった。俺の方が完全に弱い立場だった。
困ったことになった・・・。
俺は失敗したのだ。
目の前には次々と料理が完成していく。それを誰かが運んで行く。作る、運ぶの繰り返しだ。
佐藤さん。
これがあなたのずっと見てきた世界だったのか。今もこれが忘れられずに、包丁に留まっているのか。
どうしたらあなたを成仏させてあげられるんだ?
俺と一緒にあの鳥居を潜る気はないですか?
俺が心の中でそう言った後で小さな音がした。
?
何かと思って俺はその無音の世界で慎重に耳をすましてみる。
・・・・
小さいが、鈴の音がした。
まるでそうしろと言っているように聞こえた。
スゥっと頭がさらに冴え渡っていくのがわかる。
鳥居・・!
きっとこのまま鳥居を潜れば良いのだ。
でもどうやって?!
俺は今動けない。
そうだ、秋山さんはどうしただろう?このまま俺を鳥居まで運んでくれたら良いのに・・。そんな無理な考えまで浮かぶ。
そもそも眠ってからどれくらいたったのか、時間の感覚は無く、まったくわからなかった。
部屋に入り仏壇の引き出しから、父が肌身離さず持っていたお守りを取り出した。
元は紺色だったであろうそれは、角が擦り切れて白くなっていて、真ん中に白虎が刺繍されている。
そのお守りにはシルバーの鎖が取り付けてあり、父がしていたように俺も首から下げた。
枕元の電気だけつけっ放しにして、ベットに横になり、包丁の入ったケースを布団の上に置いて両手で掴んだ。
目を閉じると、疲れもあってすぐに睡魔が襲ってきた。
そして浅い眠りに入った時、体はそのままに俺の脳だけが目覚めた。
・・・暗闇に白虎が見える
その神々しい大きな生き物は、ふせの姿勢で俺をジッと見つめていた。時々そいつが瞬きするので、黙っていても生きているのだとわかる。
夢なのに異常にリアルだった。俺の意識はしっかりしていて、まるで起きて幻を見ているようだ。
しばらくするとその白虎がゆっくりと起き上がった。そして長い尻尾を見せて、後ろ側へ歩いて行ってしまう。
その白い影はだんだんと薄くなっていき、同時に体が痺れてきた。
もしかしたらお守りの力はあてに出来ないと言うことか。
マズイと思って意識を浮上させて、必死に手足を動かし金縛りを解こうとしてみる。腕の関節は多少動くものの、その下のケースを持った手はまったく動かなかった。そのうちにどんどん金縛りが強くなって不快な雑音が頭に鳴り響いた。
俺は恐怖に負けないように佐藤さん、佐藤さん!と叫び続けた。
そのうちに何かが見えてきた。
最初はぼんやりと、何か手のような物が見える。だんだんクリアになってきて、包丁で何か切っているのだとわかった。これはきっと刺身だ。
俺が包丁を持って魚の切り身を丁寧に等間隔に切っている。
いや、これは俺じゃない。佐藤さんだ。
一通り切り終わると視線が横にずれて、そこにはガラスの器のようなものがあった。ツマの上に切ったそれを綺麗に並べている。いくつかの器に並べて、また切って、並べてを繰り返した。
時々視線が大きく動き、鍋の中の汁をおたまですくって味見をしたり、白い帽子の誰かに何かを言ったりしている。
音は無く、まったくの無音の世界だった。
たまに佐藤さんの名を呼んで、問いかけてみるが聞こえないのかまったく反応してくれない。
彼はただ、ひたすら料理を作り続けていた。
そして俺はどうすることも出来ないでいる。
頭だけは妙に冴えているのに、俺はただ佐藤さんの見たいその映像だけを見せられていた。
自分がどうゆう状況にいるのかも、不思議だが冷静に理解出来た。
俺は今佐藤さんに体ごと乗っ取られているのだ。つまり彼が自ら出て行ってくれるまで、俺は何も出来ない。
対等に会話なんて出来るレベルじゃないのもわかった。俺の方が完全に弱い立場だった。
困ったことになった・・・。
俺は失敗したのだ。
目の前には次々と料理が完成していく。それを誰かが運んで行く。作る、運ぶの繰り返しだ。
佐藤さん。
これがあなたのずっと見てきた世界だったのか。今もこれが忘れられずに、包丁に留まっているのか。
どうしたらあなたを成仏させてあげられるんだ?
俺と一緒にあの鳥居を潜る気はないですか?
俺が心の中でそう言った後で小さな音がした。
?
何かと思って俺はその無音の世界で慎重に耳をすましてみる。
・・・・
小さいが、鈴の音がした。
まるでそうしろと言っているように聞こえた。
スゥっと頭がさらに冴え渡っていくのがわかる。
鳥居・・!
きっとこのまま鳥居を潜れば良いのだ。
でもどうやって?!
俺は今動けない。
そうだ、秋山さんはどうしただろう?このまま俺を鳥居まで運んでくれたら良いのに・・。そんな無理な考えまで浮かぶ。
そもそも眠ってからどれくらいたったのか、時間の感覚は無く、まったくわからなかった。
更新日:2014-05-15 16:34:44