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帰り道、秋山さんにまた手を繋いでもらってバス停まで歩いた。櫂がそのまま自宅に帰り、行きと違って二人だけでそんなふうに歩いているから余計に変な目で見られてる気がする。

「気持ち悪いですよね?」
「え?ああ、気にしないでください。俺周りの目とかあんまり気にしないタイプだから」
「ありがとうございます・・」
「いえ・・お役にたてるなら」

「それに面倒なことに巻き込んですみません」
「いえ、こんなことが無ければ気付かなかったし、逆に良かったと思います」
「・・・優しいんですね、秋山さん」
「え?・・いえ、そうですか?」
「うん」
「・・・・」
「・・・・」

あれ?
なんだこの良い雰囲気は・・?
付き合い始めたばかりの恋人みたいじゃねぇか?
いや、もうこの際なんでもいい。こうして少しでも楽出来るなら・・。
フフ・・なんて便利な人なんだと、俺は内心ほくそ笑んだ。

近くに寄ってこない霊に満足していると、彼が言った。
「俺さっそく明日行って来ます」
「はい・・なんかあなたにとっては、余計な仕事を増やしてしまいましたね」
「とんでもない、俺も出来たらその人を成仏させてあげたいですから」
「そう言ってもらえると、俺も助かります」

「大変でしょう。見たくもないものが見えてしまうなんて」
こんな面倒に巻き込まれて、俺の心配まで出来るなんてすげぇ大人だなこの人。
「・・そうっすね。若い頃は結構悩んでそれなりに荒れてましたよ」

「あの裏にある鳥居は何か意味があるんですか?」
「ああ・・あれは昔っからあって、詳しいことは俺にもわかんないんす。けどたまにそうゆういわくつきのものを俺が持ってあそこを潜ると、そいつはすぐに力を無くすんです」
「この包丁も?」
「いや、それは強すぎます。実は今朝こっそりやってみようと思ったけど無理だったんです。勝手にすんません」
「いえ」

「たまにお客さんがね、石とか流木とか浜で拾って来て、そのまま部屋に置いて帰る時があるんです。意外と多いんですよ、それに憑いてること。その場合、本当は元あった場所に返すのが良いんだけど、わかんないでしょ?どのへんから拾って来たか」
「ですね」
「そうゆう時にあそこを潜るんです。今もフロントにある流木のオブジェ、あれもそうです。鳥居を潜ればただの流木に戻るから」
「なるほど。じゃあやっぱりあの鳥居には不思議な力があるってことですね」
「はい、霊は嫌ってますね。その包丁も潜ろうとする前に逃げましたから」
「ああ、そうだったんですね。やっぱりあなたが持たないと無くならないんだ」
「そうなんです。俺からは逃げられないみたいです」
「・・・器」
「え?」
「あなたが器で周りがザルのような感じでしょうか?網目からするっと逃げられるか、そうじゃないか」
「あー、料理人ぽい表現で面白いなぁ」
俺は秋山さんを見て思わず笑った。
彼は爽やか系に見えて実は結構理屈っぽそうだ。でもその表現は的を得てる気がした。

更新日:2014-05-11 08:11:40

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