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第三章
新しい隠れ家は最高に快適だった。城を小型化したような造りで、屋敷の中を探検するだけでワクワクする。何処かから欧州の貴族って奴が現れそうな感じだ。一階は開放的な部屋ばかりで、中央の広間からいくつものリビングに繋がっている。各部屋を覗いて回ると、その中に白いグランドピアノが置かれている部屋を見つけた。数あるリビングの中でも広い空間。大きなカウチもあって、ゆっくりと寛げそうだ。
部屋に入ると、裏庭に面した大きなガラス戸から湖が見えていた。湖に反射した陽の光が、部屋の中央に置かれたピアノに映って揺らいでいる。久しぶりにピアノのある生活ができる。それだけで俺には十分快適だった。
リビングからガラス戸を開けて庭に出てみる。芝生の敷きつめられた庭も開放的で気分がいい。小さな湖の向こうには、広い草原になっていて馬が放牧されていた。少し赤茶けた色合いだが、まるで本当に欧州のようだ。ここはアリゾナなんだろうか。移動時間を考えると州外でもないはずだ。
湖の際まで行って、大きく背伸びをする。乾燥した空気がサラリと肌を撫でる。休暇が与えられたように、J.KがTシャツを用意してくれていた。Tシャツの色は白で、しかも金色のアラベスク模様のようなプリント付き。俺のイメージって、やっぱりこれなんだ。
昨夜、俺の愚痴を聞いたせいだろうか。J.Kは、俺にいつも違うと気を使っているようだった。俺はそんなJ.Kに、言わなければいけないことがあるのに、言えなかった。何より、夕べ感じていたサムの温もりが、朝には夢だったかのように消えていた。もっと傍にいて欲しかったって、そんな心残りが俺の口を開かせてくれなかった。
デイヴィスに喋っちまったってことを、俺は言えなかった。それで殺されたって俺は構わないんだ。でも、夢のような温もりが最後じゃ嫌だった。せめて、もう一度サムに会うまではと願う。俺にとっては組織の大事より、あいつのほうが大切なんだ。俺って、なんて我が儘で情けない奴なんだろう。こんなことでマフィアの構成員になんか、やっていられるんだろうか。
そんなことを考えながら、天を仰いで透きとおるような青空を眺めていると、背後に人の気配がした。振り向くと強面の野郎三人が立っていた。見慣れた強面でも、ちょっと身を引いてしまう。
J.Kの手下たちだったが、いつものスーツ姿ではなく、それぞれ普通にチンピラだった。三人のうちの一人が、話しかけ辛そうにしながら俺に話しかけてくる。見るからに口下手そうな中年男だ。
「あの、何か格闘技をやっていた、とか……」
と、何かの武術の構えを見せる。その動作がぎこちなく感じて、思わず笑ってしまった。三人とも俺の腕にある包帯をチラチラと見ているから、俺は「怪我は治った」とでもいうように腕を振り回して、「俺は喧嘩しかしたことがない」と答える。すると、彼等は顔を見合わせて、それなら、と声を合わせる。
それから三人は色々な武術の基本的な構えや、技なんかを教えてくれた。筋がいいから基本をやらないのは勿体無いとか、俺の動きにはスピードはあるがパワーが無いので、技でそれを補うこともできるとか教えてもらった。
最初は俺の身体に触れることに戸惑っていた手下たちも、武術を教えることに真剣になって、そんなことはどうでもよくなったらしい。おかげで俺は気持ちよく投げ飛ばされた。それでも俺には楽しいひと時だった。声を出して笑えるような楽しい時間を過ごすのは、久しぶりだった。手下たち三人も楽しそうにしてくれているし、なんだか不思議な感じがする。突然、兄貴が三人もできたような気がする。
彼等が、俺の名前を呼んでいることに気が付きながらも、あまりに自然に思えて違和感もない。J.Kが「昼飯の当番は誰だ!」と、二階のテラスから叫ぶまで、庭先で騒ぎながら遊んでいた。
部屋に入ると、裏庭に面した大きなガラス戸から湖が見えていた。湖に反射した陽の光が、部屋の中央に置かれたピアノに映って揺らいでいる。久しぶりにピアノのある生活ができる。それだけで俺には十分快適だった。
リビングからガラス戸を開けて庭に出てみる。芝生の敷きつめられた庭も開放的で気分がいい。小さな湖の向こうには、広い草原になっていて馬が放牧されていた。少し赤茶けた色合いだが、まるで本当に欧州のようだ。ここはアリゾナなんだろうか。移動時間を考えると州外でもないはずだ。
湖の際まで行って、大きく背伸びをする。乾燥した空気がサラリと肌を撫でる。休暇が与えられたように、J.KがTシャツを用意してくれていた。Tシャツの色は白で、しかも金色のアラベスク模様のようなプリント付き。俺のイメージって、やっぱりこれなんだ。
昨夜、俺の愚痴を聞いたせいだろうか。J.Kは、俺にいつも違うと気を使っているようだった。俺はそんなJ.Kに、言わなければいけないことがあるのに、言えなかった。何より、夕べ感じていたサムの温もりが、朝には夢だったかのように消えていた。もっと傍にいて欲しかったって、そんな心残りが俺の口を開かせてくれなかった。
デイヴィスに喋っちまったってことを、俺は言えなかった。それで殺されたって俺は構わないんだ。でも、夢のような温もりが最後じゃ嫌だった。せめて、もう一度サムに会うまではと願う。俺にとっては組織の大事より、あいつのほうが大切なんだ。俺って、なんて我が儘で情けない奴なんだろう。こんなことでマフィアの構成員になんか、やっていられるんだろうか。
そんなことを考えながら、天を仰いで透きとおるような青空を眺めていると、背後に人の気配がした。振り向くと強面の野郎三人が立っていた。見慣れた強面でも、ちょっと身を引いてしまう。
J.Kの手下たちだったが、いつものスーツ姿ではなく、それぞれ普通にチンピラだった。三人のうちの一人が、話しかけ辛そうにしながら俺に話しかけてくる。見るからに口下手そうな中年男だ。
「あの、何か格闘技をやっていた、とか……」
と、何かの武術の構えを見せる。その動作がぎこちなく感じて、思わず笑ってしまった。三人とも俺の腕にある包帯をチラチラと見ているから、俺は「怪我は治った」とでもいうように腕を振り回して、「俺は喧嘩しかしたことがない」と答える。すると、彼等は顔を見合わせて、それなら、と声を合わせる。
それから三人は色々な武術の基本的な構えや、技なんかを教えてくれた。筋がいいから基本をやらないのは勿体無いとか、俺の動きにはスピードはあるがパワーが無いので、技でそれを補うこともできるとか教えてもらった。
最初は俺の身体に触れることに戸惑っていた手下たちも、武術を教えることに真剣になって、そんなことはどうでもよくなったらしい。おかげで俺は気持ちよく投げ飛ばされた。それでも俺には楽しいひと時だった。声を出して笑えるような楽しい時間を過ごすのは、久しぶりだった。手下たち三人も楽しそうにしてくれているし、なんだか不思議な感じがする。突然、兄貴が三人もできたような気がする。
彼等が、俺の名前を呼んでいることに気が付きながらも、あまりに自然に思えて違和感もない。J.Kが「昼飯の当番は誰だ!」と、二階のテラスから叫ぶまで、庭先で騒ぎながら遊んでいた。
更新日:2014-03-23 19:09:29