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小説

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悠々と間に合う時間に家を出る。遅刻などしない。なぜなら、朝は顔を洗ってごはんを食べて着替えてほんの少しメイクするだけだから。
今日の朝ごはんは生クリームをたっぷりつけたホットケーキを三枚と、付け合わせのサラダにマヨネーズをかけたもの。ついでに野菜ジュース。朝ごはんを抜くとか、考えられない。
メイクは軽め。何しろ花の高校生なのだからお肌はぷるんぷるんだし。
「おはよ」
「おはー」
電車に乗って、学校の最寄駅に着く。友達のサチカとそこで偶然合流して喋りながら道をゆく。サチカは、まつげはつやつやに伸びているし目の上はほんのり光っているし、毛穴はひとつも見えないようにきっちりクリームタイプのファンデーションを塗っている、いわゆるお化粧ばっちりの子だ。普通に可愛い。
吹きすさぶ風が冷たい。生足でミニスカのサチカが体を縮こまらせている。今日は特に冷えるのであたしはスカートの下にジャージをはいているけど、やっぱり寒い。
「昨日さ、バイトでめっちゃむかつく客いて」
「マジか」
サチカがバイトの愚痴を話し始めて、あたしはふと後方に目をやった。さらっと視界に入る、鈍い銀髪。
「あっ大谷」
「おお」
短い髪の毛を暗めの灰色に染めた大谷がサチカ同様肩をすくめながらこちらに速足でやってくるところだった。背の高い大谷は歩幅も大きいので、簡単にあたしたちを追い抜いていく。
「遅刻すんなよ、デブ」
「うわっ女の子に何言ってくれてんの!」
「俺は登下校中にまでスカートの下にジャージはいてる奴を女とは認めねえ」
にやにや笑った大谷が、追い抜きざまにそう言って学校のほうへ消えていく。隣でサチカが呟いた。
「朝からラッキーだね」
「うん、うーん? ラッキーなの?」
「好きな人と話せたんだから、ラッキーなんじゃないの?」
「そだよね……」
散々罵られただけの気もするけど、たしかに、クラスの違う大谷と話す機会はあまりない。友達の友達程度の仲なので、ああいう挨拶以外であんまり話すこともない。
……友達の友達をあんだけ罵倒するってどうなの、とは思うけど。
「まあ、たしかに葉月はちょっと太めだけど、可愛いからいいじゃん」
「一言余計」
笑ってサチカの肩を押したりしてじゃれ合っているうちに学校についてしまう。
たしかに、あたしはちょっと太い。どれくらいかって言うと、まあ同じくらいの身長のサチカより、腕や足が倍ほど太いくらいだ。
まあ、なんて言うか今流行りの癒し系? マシュマロ女子?
正直、太り方にもいろいろあって、あたしの太り方はいいものだと思う。
肌はハリがあってつやつやしているし、愛嬌があるらしく人に警戒心を抱かせないみたいだし。丸くてころっと可愛い女の子なのである。こういうタイプの女の子がクレープとか食べてると、かなり癒されるんじゃない、と自負している。
実際男女ともにウケがいいし。友達多いし。
女の子は痩せてないと可愛くないとか、絶対嘘。あたし、じゅうぶん可愛いもん。好きな食べ物我慢するとか、逆に体に悪い気もするし。
というわけで、教室に入って鞄を置いて、早速チョコレートを出して食べ始める。
「葉月また食ってんの?」
「勉強前の糖分補給」
「太るぞー」
「もう太ってるー」
いろんな人があたしが食べてるのを見て笑顔になる。それってとても素晴らしいことだ。さしづめマスコット的存在と言いますか。
新発売のチョコレートを一箱あっという間に空にした頃、授業前の教室に大谷がやってきた。教室のドアのところに寄り掛かって、室内を見回している。
「おっ。大谷どしたん」
「誰か辞書貸して。忘れた」
サチカが隣であたしを肘でつつく。あたしは、大谷の友達が辞書を出す前に、慌てて鞄から辞書を出した。
「はいっ、大谷」
「お、サンキュ」
大谷があたしのほうへやってきて、辞書を受け取ってにかっと笑った。大谷は笑うと八重歯が出る。それが可愛くてあたしも笑うと、大谷は辞書を手に持ったまま、あたしに言う。
「なんかお礼してやる」
「ほんと? じゃあ学食おごって」
「葉月お前また飯かよ!」
クラスの男子が笑いながら突っ込む。それにへらりと笑って返していると、大谷が頷いた。
「分かった。一番安いのでいい?」
「いいよいいよー」
「ん。じゃあ昼休み返しに来るから」
「オッケー」
大谷が去って、教室がと言うかあたしの周りが少しざわつく。
「なんかいい感じじゃん?」
「もう告っちゃえば?」
「えー! 無理無理!」
あたしは頬がにやにやと引きつるのを抑えきれないまま、首を振った。それでも、調子に乗った男子たちの冷やかしはやまない。サチカもそれに乗っかってすさまじい勢いで冷やかしてくる。
そして、乗せられておだてられたあたしは、なんだかいける気がしてきてしまう。

更新日:2014-03-01 20:35:41