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少年は迷いを捨てる

 午後三時半。あたし達はコシキメ州にあるカテアス--難民施設より北西--に到着。そこにあるバラック(?)に滞在中。本来の意味と違う気がするんだけど……

「姉ちゃん、そこを突っ込んだら終わりと誰かが……」

「ああ、もう! ブレインキャップの生活は一昨日に終わったの! もう現実に戻るわよ、京介!」

「戻ってるけど、やっぱり慣れないよ」あたしだって同じよ。未だにファンタジーの世界に馴染めないんだけど。

「ところでラスター王子」「何かね、京介殿?」「いつまでここに滞在するの?」そういや王子様は高貴な一族の第二王位継承者だったね。

「三日間だ」「それはさすがに人が集まりますよ!」「安心しろ、京介殿! ここの民は王族の顔を覚えないくらい田舎者の集まりだ。心配は無用というもの」そ、そうなの? た、しかにバラックの管理人は田舎臭いわ!

「三日間なんて何か意味あるの?」

「決まってる。この町の周辺に結晶がないかを調査する為だ」

「そんなに多いのですか、僕達と同じように『ブレインキャップ』で生活する人って」ま、まあ世界は箱舟市だけじゃないし。かの中華世界だってヨハネスブルクだってソマリアだってメキシコだって……あ!

「どうしたの、奴隷さん?」「ん、何でもない」ここの名称で気付いたんだけど、ほぼメキシコじゃないの?

「とにかくセティスジュ帝国がどれくらい我が領土に結晶を立ててるか判然しないが、これ以上領土侵犯を見過ごす訳にもいかない!」

「かの国みたいだね、セティスジュ帝国のやり口は。平気で領海……この際は領土を侵犯する行為といい」

「行動開始時間は午後六時十四分。きっちりした時間は奴らに悟られやすい以上は出来ない」つまりそれより前か後にあたし達は動くのね。

「アーキは処理したけど、私達にはまだ処理しないと駄目な敵がたくさん」

「でも帝国全ての人を殺したらそれこそ虐殺だよ、ロールさん」

「別に帝国全ての軍人を殺す訳ではない。戦争に於いては何事もルールはある」そりゃそうよ。全て殺したらそれこそヒトラーやスターリンと変わらないわ。

「ただし、始末しなければいけないのは現時点ではアーキと同じくこの近辺に潜んでいるであろう『ヒムガシ』と『タットシ』、それに『トッザカ』だ」東国原先生と嶋木に栃坂先生の事?

「他にはあの銀髭爺さんとえっと確か……」「『八卦』。でもあいつらはまだ動かない」わかるの、ロールちゃん?

「余の推測ではこの話は漏れているやもしれん。何しろここは余の顔も覚えない民達の集まり。故にトッザカが変装しても咄嗟に気づけない」栃坂先生が来るの?

「トッザカは偵察のプロにしてパイロキネシス使い。この世界には私が知ってる限り超能力者は二人いる……奴隷君を除いて」

「だからロールさん! 僕の事は『京介』って読んでよ!」はあ……終ちゃんは諦めたの、京介?

「京介殿、サンドロールに感情移入するな。この時期が最も危ないんだ、彼女は」謎だよね、それ。どうして王子様は恐れるの?

「どうせ大人の都合でしょ? 僕には難しい事はわからないけど、それじゃあ可哀想だよ」

「今は結晶がこの辺にないかを探さないと……ク!」あたしも気付いた!

「殺気がしたけ……」ロールちゃんが言い終える間もなく、バラックは勢いよく燃えだした!

「こ、れがパイロキネシス……うわ!」あたしの冥惨亜流はまだ炎を消し飛ばす技術はないわ!

「トッザカめ……もう行動に移すか!」ラスター王子も既に水魔法を放ってるんだけど。

 火はラスター王子のおかげで鎮火したけど、バラックの原形は留められなかったわ。管理人はあたし達に説教をするけど、そもそも火をつけたのはトッザカとかいう誰かわからない奴よ。そいつの気配はもうここにはない。

 はあ、何だか腹立つわ! 必ずそいつを見つけ出して管理人から受けた説教を倍に返さないと気が済まない!

更新日:2014-03-05 15:15:04

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