• 9 / 22 ページ

9



 「大ちゃん、ダメだよ・・」、




僕の手を掴んだまま歩き出した大ちゃんに、声をかける。




 

 「だいちゃん・・・」、




何度声をかけても、大ちゃんは足を停めない。







 大通りまで出ると、直ぐにタクシーを止めて僕を先に中に押し込んだ。




 舞台の後で疲れているだろう大ちゃんは、僕の肩にその頭を乗せて




ゆっくりと目を閉じた。







 僕は、もう言葉を出さずに、大ちゃんの頭の重さを受け止め、幸せな




気持ちになっていたのはきっと大ちゃんにも伝わっているんだろう、




僕の手をギュッと握りしめている。















 大ちゃんの実家には、何回か行った事がある。




 気さくなお母さんと、大ちゃんにそっくりなお父さん。そして、僕が行く




って言うと、必ず遊びに来てくれたお姉さん。







 みんな、僕と大ちゃんの事を知っていた。




 嫌な顔一つせずに、僕を家族の中に招き入れてくれて、そして優しく




包んでくれた。







 その家族が、他の人を受け入れているという事は、僕と大ちゃんが




別れたことを知っているという事だ。




 きっと、心の中で大ちゃんがちゃんとした道に戻ってくれたことを喜んで




いるはず。







 そこに、今更僕が表れて・・・・・。




 僕に、その幸せを壊す権利はないのに・・・・。







 どんどん、窓の外の景色が流れていく。


































 ごめんな、まお。




 何かを言ってほしくて、心細くなっているのは、その手の震えで




俺に伝わってきている。




 でも、もう少しだけ、待ってくれ・・・。




 すべて、きちんと話すから、







 俺は、マオの肩で、久しぶりの甘い香りを感じて、涙をこらえていた。
















 もうすぐ、家が見える。







































 

更新日:2014-01-30 20:31:12

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook