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 「今日は冷えるよ、気をつけておかえり・・・」、おじいさんに




そう言われて、僕は、はい、っと小さく頷いた。







 「おやすみなさい・・・・」、そう言ってその自動ドアを出ると、




冷たい風が一気に僕を包んだ。







 「寒い・・・、手袋してくればよかったなあ・・」、空を見上げると




小さく月が見えた。







 指先に息を吹きかけながら僕はなぜか、公園に向かっていた。



















 自動ドアが開いて、出て来たのは、相変わらずの薄着で、胸の




空いたジャケットで手袋も、ストールもしていない・・・変わらない




あいつだった。







 寒そうに指先に息を吹きかけて、ゆっくり天を仰いだ。




 その先には、ちいさな月が見えた。







 そっと、道路の反対を歩きながらその背中を見つめる。




 「もう、声をかける事も許されないのかな・・・、抱きしめる事も・・」




そんな事を呟いた俺の前に、懐かしい公園が見えた。







 あいつは、ためらわずにその公園の中に向入っていく。




 こんな時間に?。







 思わず俺は走り出していた。










 将来の夢、この先の不安、色んな事を語りあったあのベンチに




そっと腰を下ろしたあいつは、また空を見上げている。







 そして、空に向かって右手を伸ばした。




 まるで、その月を掴むかのように。







 俺は、吸い込まれる様に、そこに近づき、そっと、その背中を抱き




しめていた。




 







 

更新日:2014-01-06 23:55:37

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