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別働隊
柴田軍の先手衆では前田勢の突進が失敗した。田上山の奪取も失敗した。柴田軍の攻勢で唯一奮戦していたのが盛政率いる別働隊だった。
彼らは賎ケ岳、針峰を攻めている。
砦を守っていた明智軍は突如現れた彼らに驚き戸惑いながらも防戦に努めた。
盛政たち別働隊は、神明山や堂木山から出発すると、権現坂から琵琶湖に出た。琵琶湖沿いに南下し、飯浦坂から余呉側に現れた。別働隊の動きを明智軍から隠すためだ。
そこからは、賎ケ岳を攻める柴田勝政と針峰を目指す佐久間盛政・安政兄弟の二手に別れた。
「押せや。押せや」
馬上から盛政は叫び続けている。夜叉玄蕃と恐れられる形相で叱咤激励する。
盛政勢三六〇〇は、主将の命じるままに山上の針峰目指して波の如く押し寄せる。山を攻め登るというのに、疲労や不利さをまったく意に介さない動きだった。
針峰に詰めている四王天政孝と荒木行重の一五〇〇は、鉄砲や弓、投石などあらゆる手段を盛政勢に浴びせた。鉄砲で撃ち倒され、石で頭を砕かれても、盛政勢は鯨波をあげて進んでいく。
力攻めのため、盛政のもとには頻繁に被害の報告が来る。名のある者の死も珍しくない。それでも盛政は怯まずに攻めたてる。
盛政勢の先手大将拝郷家嘉は盛政に劣らない猛将で知られている。彼は自ら率いる八〇〇の手勢の先頭に立って戦っていた。しかし、攻勢開始からすでに一刻が過ぎているが、手立てが見出せずにいた。
その現状に苛立つ拝郷はさらに前へ前へと馬を進ませた。彼の馬廻が危険だと諭したが、彼は聞かなかった。
拝郷に鉛玉が当たったのはそのためだった。肩だった。傷は致命的なものではなかったが、衝撃で落馬してしまった。
大将が落馬したのを見た足軽たちは、大将が討たれたと思い込み一斉に逃げだし始めた。組頭たちの制止もこうなっては無駄だ。
拝郷は落馬した時に失神したが、駆けつけた馬廻に守られて退いた。
「ええい。何をやっておるのだ」
盛政は軍配で膝を叩いた。先手大将の拝郷の負傷で、新たに先手を率いる者を選ばなくてはならない。しかし、配下の者は他の攻め口を担当している。それらを動かすわけにはいかん。
(どうすればよい。悩む時間とて惜しいのに)
盛政は周りを見回した。いるのは信頼すべき馬廻たちだ。しかし、小身でとても先手をまかせる者たちではない。少なくとも現在は。
(そうだ。いないのなら私が行けば良いではないか)
「勘七朗、勘兵衛、猪兵衛、源次郎、九蔵、新内はおるか?」
盛政の呼びかけに、おー、と呼ばれた五人が集まる。青木勘七朗法斉、原勘兵衛、豊島猪兵衛、鷲見源次郎、鷲津九蔵、毛屋新内の五人は盛政の信頼する馬廻たちだった。
「すぐに手勢を集めよ。他の者にも戦の用意をさせよ」
「すでに戦の準備は整っておりまする。しかし、何用で?」
勘七郎が代表して訊ねた。
「決まっておろう。先手に立つのだ」
「お控えくだされ。殿の御体にもしものことあらば、我らの腹かっさばいても足りませぬ。どうか、ご再考を」
「ここで問答している時間はない。すぐに手勢を連れてまいれ。来ぬならわし一人でゆくぞ。臆病者は家中にいらぬ」
ここまで盛政に言われたら、彼らの面目としても盛政に従うしかない。彼らの面目のためにも家のためにも盛政をなんとしても守るしかない。
すぐに盛政の旗本馬廻が先手に立つ。その数九〇〇。
「良いか、ここを落せば柴田の勝ちぞ。恩賞も思いのままじゃ。首はうち捨てよ。砦に一番乗りした者が功名じゃ。わしに続け」
盛政が馬を走らせると、彼を守ろうと馬廻が続く。大将がここまで身体を張ると、足軽雑兵たちもここぞとばかりに山頂目指して駆け登る。
拝郷の敗北で失われたかに見えた勢いが復活していた。
それに触発されるように、残りの盛政勢も針峰砦に押し寄せる。砦からの鉄砲・弓に撃ち返す。
盛政とともに針峰を攻める佐久間安政の九〇〇は、盛政勢の攻撃とは別に、大岩山とを結ぶ峰から針峰に攻め口を決めていた。大回りとなるため盛政勢の攻撃に参加できずにいたが、攻め口に着いた時、ちょうど盛政の攻撃と重なった。
兄の馬廻が先手に立っている情報を知ると、すぐさま攻めるように命じた。兄が先手にいると分かったからだ。
安政勢が参加したことで、針峰砦は難しい局面を迎える事になった。
彼らは賎ケ岳、針峰を攻めている。
砦を守っていた明智軍は突如現れた彼らに驚き戸惑いながらも防戦に努めた。
盛政たち別働隊は、神明山や堂木山から出発すると、権現坂から琵琶湖に出た。琵琶湖沿いに南下し、飯浦坂から余呉側に現れた。別働隊の動きを明智軍から隠すためだ。
そこからは、賎ケ岳を攻める柴田勝政と針峰を目指す佐久間盛政・安政兄弟の二手に別れた。
「押せや。押せや」
馬上から盛政は叫び続けている。夜叉玄蕃と恐れられる形相で叱咤激励する。
盛政勢三六〇〇は、主将の命じるままに山上の針峰目指して波の如く押し寄せる。山を攻め登るというのに、疲労や不利さをまったく意に介さない動きだった。
針峰に詰めている四王天政孝と荒木行重の一五〇〇は、鉄砲や弓、投石などあらゆる手段を盛政勢に浴びせた。鉄砲で撃ち倒され、石で頭を砕かれても、盛政勢は鯨波をあげて進んでいく。
力攻めのため、盛政のもとには頻繁に被害の報告が来る。名のある者の死も珍しくない。それでも盛政は怯まずに攻めたてる。
盛政勢の先手大将拝郷家嘉は盛政に劣らない猛将で知られている。彼は自ら率いる八〇〇の手勢の先頭に立って戦っていた。しかし、攻勢開始からすでに一刻が過ぎているが、手立てが見出せずにいた。
その現状に苛立つ拝郷はさらに前へ前へと馬を進ませた。彼の馬廻が危険だと諭したが、彼は聞かなかった。
拝郷に鉛玉が当たったのはそのためだった。肩だった。傷は致命的なものではなかったが、衝撃で落馬してしまった。
大将が落馬したのを見た足軽たちは、大将が討たれたと思い込み一斉に逃げだし始めた。組頭たちの制止もこうなっては無駄だ。
拝郷は落馬した時に失神したが、駆けつけた馬廻に守られて退いた。
「ええい。何をやっておるのだ」
盛政は軍配で膝を叩いた。先手大将の拝郷の負傷で、新たに先手を率いる者を選ばなくてはならない。しかし、配下の者は他の攻め口を担当している。それらを動かすわけにはいかん。
(どうすればよい。悩む時間とて惜しいのに)
盛政は周りを見回した。いるのは信頼すべき馬廻たちだ。しかし、小身でとても先手をまかせる者たちではない。少なくとも現在は。
(そうだ。いないのなら私が行けば良いではないか)
「勘七朗、勘兵衛、猪兵衛、源次郎、九蔵、新内はおるか?」
盛政の呼びかけに、おー、と呼ばれた五人が集まる。青木勘七朗法斉、原勘兵衛、豊島猪兵衛、鷲見源次郎、鷲津九蔵、毛屋新内の五人は盛政の信頼する馬廻たちだった。
「すぐに手勢を集めよ。他の者にも戦の用意をさせよ」
「すでに戦の準備は整っておりまする。しかし、何用で?」
勘七郎が代表して訊ねた。
「決まっておろう。先手に立つのだ」
「お控えくだされ。殿の御体にもしものことあらば、我らの腹かっさばいても足りませぬ。どうか、ご再考を」
「ここで問答している時間はない。すぐに手勢を連れてまいれ。来ぬならわし一人でゆくぞ。臆病者は家中にいらぬ」
ここまで盛政に言われたら、彼らの面目としても盛政に従うしかない。彼らの面目のためにも家のためにも盛政をなんとしても守るしかない。
すぐに盛政の旗本馬廻が先手に立つ。その数九〇〇。
「良いか、ここを落せば柴田の勝ちぞ。恩賞も思いのままじゃ。首はうち捨てよ。砦に一番乗りした者が功名じゃ。わしに続け」
盛政が馬を走らせると、彼を守ろうと馬廻が続く。大将がここまで身体を張ると、足軽雑兵たちもここぞとばかりに山頂目指して駆け登る。
拝郷の敗北で失われたかに見えた勢いが復活していた。
それに触発されるように、残りの盛政勢も針峰砦に押し寄せる。砦からの鉄砲・弓に撃ち返す。
盛政とともに針峰を攻める佐久間安政の九〇〇は、盛政勢の攻撃とは別に、大岩山とを結ぶ峰から針峰に攻め口を決めていた。大回りとなるため盛政勢の攻撃に参加できずにいたが、攻め口に着いた時、ちょうど盛政の攻撃と重なった。
兄の馬廻が先手に立っている情報を知ると、すぐさま攻めるように命じた。兄が先手にいると分かったからだ。
安政勢が参加したことで、針峰砦は難しい局面を迎える事になった。
更新日:2013-12-26 19:59:18