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お題:冷静と情熱の間にあるのは食卓 制限時間:1時間
ここはとあるマンションの一室にあるキッチン。
そこで4人掛けのダイニングテーブルに男と女が向かい合って座っている。2人の前にはお揃いのマグカップと大皿に並べられたドーナツがあった。
男と女は目の前のドーナツやコーヒーにも手をつけずに、何やら熱心に話し込んでいるようだった。
「私たちが焼却された死人を視認出来ないように、他人に認識されなければ、それは存在しないと同義だわ」
「確かに君の言うことも一理ある。しかし、例えば、君の隣の空席に、視認出来ない脳と目と耳が浮んでいた場合、そこに意識が存在していると思わないかい」
女は右隣の空席を一瞥してから、軽蔑したような口調で男に返答する。
「それは、幽霊じゃないの」
隣席に向けていた瞳を目前の男に向ける。彼女の青い瞳は、人を凍りつけるような冷たさを帯びていた。
「幽霊なんて存在しないわよ。そこのドーナツの穴のように、あるように見せているだけで、最初から存在していないの。あるのは、生きている人間の目だけよ」
「何故、そう言いきれるんだい」
「簡単なことだわ。生きるものは本能的に、他人、もしくは、同種族に認識されるようにプログラムされているのよ。そのプログラムを無視することは死を意味するわ。意思があるならば、他人に認知されるものよ」
男は女の返答に眉を寄せ、彼女への不満を中和させるように手元のマグカップを口に運び、苦いコーヒーを口に流し込んだ。
「話を変えよう。じゃあ君は、地球上で最後に存在した生命体は心臓の鼓動が続いていたとしても、死んでいると同義だというのかい」
「そんな、シチュエーションはまず有り得ないと思うわ。だけど、もし実現できたのだとすれば、それは例外になる。私が言いたいのは、命、意思がある者の存在を定義するためには絶対的に観測者となる他人の五感が必要になるということよ。小説家の頭にどれだけ優れたストーリーがあっても、活字になっていないのであれば、その作品が存在しないのと同義のようにね」
女は先ほどから、ドーナツにもコーヒーにも手をつけようとしない。
男は彼女にはそれが、不可能であるからそうしないのであると疑わない。
彼女の塩化ビニール製の綺麗な指の、球間接を見つめながら男はいう。
「君は、命を持たずして意思を持つ者の存在は、生命として認知されるべきかい」
彼女は返答をせず、作り物のようなぎこちない微笑を浮かべるばかりだった。
そこで4人掛けのダイニングテーブルに男と女が向かい合って座っている。2人の前にはお揃いのマグカップと大皿に並べられたドーナツがあった。
男と女は目の前のドーナツやコーヒーにも手をつけずに、何やら熱心に話し込んでいるようだった。
「私たちが焼却された死人を視認出来ないように、他人に認識されなければ、それは存在しないと同義だわ」
「確かに君の言うことも一理ある。しかし、例えば、君の隣の空席に、視認出来ない脳と目と耳が浮んでいた場合、そこに意識が存在していると思わないかい」
女は右隣の空席を一瞥してから、軽蔑したような口調で男に返答する。
「それは、幽霊じゃないの」
隣席に向けていた瞳を目前の男に向ける。彼女の青い瞳は、人を凍りつけるような冷たさを帯びていた。
「幽霊なんて存在しないわよ。そこのドーナツの穴のように、あるように見せているだけで、最初から存在していないの。あるのは、生きている人間の目だけよ」
「何故、そう言いきれるんだい」
「簡単なことだわ。生きるものは本能的に、他人、もしくは、同種族に認識されるようにプログラムされているのよ。そのプログラムを無視することは死を意味するわ。意思があるならば、他人に認知されるものよ」
男は女の返答に眉を寄せ、彼女への不満を中和させるように手元のマグカップを口に運び、苦いコーヒーを口に流し込んだ。
「話を変えよう。じゃあ君は、地球上で最後に存在した生命体は心臓の鼓動が続いていたとしても、死んでいると同義だというのかい」
「そんな、シチュエーションはまず有り得ないと思うわ。だけど、もし実現できたのだとすれば、それは例外になる。私が言いたいのは、命、意思がある者の存在を定義するためには絶対的に観測者となる他人の五感が必要になるということよ。小説家の頭にどれだけ優れたストーリーがあっても、活字になっていないのであれば、その作品が存在しないのと同義のようにね」
女は先ほどから、ドーナツにもコーヒーにも手をつけようとしない。
男は彼女にはそれが、不可能であるからそうしないのであると疑わない。
彼女の塩化ビニール製の綺麗な指の、球間接を見つめながら男はいう。
「君は、命を持たずして意思を持つ者の存在は、生命として認知されるべきかい」
彼女は返答をせず、作り物のようなぎこちない微笑を浮かべるばかりだった。
更新日:2016-06-28 10:56:35