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事務的な台詞を口にしながら女は服を脱いでいく。

肌には艶があり、また、上等な食肉を想起させるほど柔らかであった。

女の体に夢中に齧り付いていると、あることに気がついた。

左手の小指が根元から無いのだ。

行為を一通り済ませ、満足したあと、俺は彼女に意地の悪い質問を投げかけた。

これから、死ぬつもりである。痛む良心はなかった。

「私、男の人が好きなんです。子供の時から。病気じゃないかってお母さんに病院に連れて行かれたくらい」

女は、マニキュアに塗れた右手の爪を眺めながら、淡々とした様子で語った。

「去年くらいに、どうしても手に入れたい男と出会って。でも、普通の公務員の人で、しかも、結婚してたんだって」

なんとなく、俺は女の柔らかな二の腕に手を伸ばす。

「無理矢理言い寄ったら、君は誰にでもそんなことを言っているのだろうって言われて」

彼女の腕を肩から手首の方へと撫で下ろし、やがて、切断された指の根元に到着する。

「だから、ね。昔の習わしに則って、プレゼントしたってわけ。私は生涯貴方のものですって。一方的な指切り」

指の根元は柔らかかった。それから、しばらく、女の肩を抱き寄せ、長い間口づけを交わした。

やがて、時間となり、服を着て部屋を出る。

「まあ、全部嘘だけど」

部屋の去り際、後ろから低い声が聞こえた。

更新日:2017-07-02 00:02:27

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