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お題:生かされたドア 制限時間:1時間
この状況は所謂、刑事ドラマなんかでよく聞く密室というシチュエーションではないだろうか、ということに気づいたのは、見知らぬ部屋から目覚めて10分ほどしてからだった。
その部屋はとにかく赤い。照明の色から始まり、壁が赤く、天井が赤く、床が赤い。僕が座っていたソファも赤い革張りだった。
部屋の一辺にぽつんと配置されたソファ以外は家具が何も無い。家具が無い代わりに、部屋の中央にうつ伏せになって女性が横たわっている。彼女には息も脈も無かった。
死体が中央にあり、僕自身にここに運ばれる(もしくは、自己的に訪れる)際の記憶が無い以外にも、このシチュエーションには不可解なことがまだあった。
それは、この部屋には窓も扉もないことである。
「一体、僕はどこからこの部屋に入ってきたのだろう」
部屋を検証してみる。
まず、壁。壁は赤いクロス張りだ。触った感触からあまり見ない、爪を立てたら簡単に傷つきそうな素材だと分かった。高いか、安いかはその辺の物価に精通していないのでよくわからない。
次に床。床は一面赤い絨毯張りだった。部屋はぱっと見、正四角形で面積は目測四方15mずつありそうだ。その部屋を一枚の絨毯で床を覆っている。
次に天井。天井は高く、恐らく床から3、4mはある。天井には2mピッチでダウンライトが配置されており、電球自体が赤い光源を発していた。
そして、部屋の中央にある死体。僕は、恐る恐る、死体に近づくと爆発しそうな鼓動を抑えようと胸に握りこぶしを当てながら意を決して死体に触れる。その時、ふと疑問がよぎる。
前にも同じことをしたような気がすると。
いや、自分は一度彼女の脈を測るためにここまで来たはずだ。しかし、それは、本当にあのソファから目覚めた後だったか。
酷く、記憶が曖昧であることに気がつく。自身の名前、出身地、ここに来る以前の記憶、それら全てを消失しているようだった。
激しい眩暈に見舞われながら、死体をうつ伏せから仰向けにひっくり返す。
僕は彼女を知っている、と思った。
彼女には名前が無かった。それは僕も同じで、僕らは名前が無いままここに入れられていたのだ。
彼女の首には、両手で首を絞めた痕があった。その痕に手を当てると、痕は僕の手の大きさにぴったり当てはまった。
自分が呼吸することを忘れていたことに気がつき、ふと何の気なしに頭上を見やる。いつの間にか大量の汗をかいていたらしく、目が汗で沁みた。
位置的に死体があったのであまり近づかなかったということもあり、見逃していたが、人が一人入れるくらいの点検口らしきものがあることに気づいた。
滲む視界の中で歪む点検口。
そこで、僕は麻痺していた記憶を鮮明に取り戻すことが出来た。
彼女の声を思い出すことが出来た。
「私、ここを出たいわ」
そうだ、彼女はこの部屋を出たいと言った。
ソファを踏み台にして、僕に肩車をしてもらって、自分だけ点検口を開けて、ここを出たいと申し出たのだ。
僕は、彼女に取り残されるのが嫌で、そのことに腹を立てて、彼女の細い首をこの手で絞めた。
彼女の顔をこれ以上見るのは精神衛生上よろしくないと判断した僕は、彼女をうつ伏せに戻し、よろけた足取りでソファへと逃げ戻り、もう一度眠りに付いた。
この一連の動作を僕は何度繰り返しているのだろうと考えながら、眠りに付いた。
その部屋はとにかく赤い。照明の色から始まり、壁が赤く、天井が赤く、床が赤い。僕が座っていたソファも赤い革張りだった。
部屋の一辺にぽつんと配置されたソファ以外は家具が何も無い。家具が無い代わりに、部屋の中央にうつ伏せになって女性が横たわっている。彼女には息も脈も無かった。
死体が中央にあり、僕自身にここに運ばれる(もしくは、自己的に訪れる)際の記憶が無い以外にも、このシチュエーションには不可解なことがまだあった。
それは、この部屋には窓も扉もないことである。
「一体、僕はどこからこの部屋に入ってきたのだろう」
部屋を検証してみる。
まず、壁。壁は赤いクロス張りだ。触った感触からあまり見ない、爪を立てたら簡単に傷つきそうな素材だと分かった。高いか、安いかはその辺の物価に精通していないのでよくわからない。
次に床。床は一面赤い絨毯張りだった。部屋はぱっと見、正四角形で面積は目測四方15mずつありそうだ。その部屋を一枚の絨毯で床を覆っている。
次に天井。天井は高く、恐らく床から3、4mはある。天井には2mピッチでダウンライトが配置されており、電球自体が赤い光源を発していた。
そして、部屋の中央にある死体。僕は、恐る恐る、死体に近づくと爆発しそうな鼓動を抑えようと胸に握りこぶしを当てながら意を決して死体に触れる。その時、ふと疑問がよぎる。
前にも同じことをしたような気がすると。
いや、自分は一度彼女の脈を測るためにここまで来たはずだ。しかし、それは、本当にあのソファから目覚めた後だったか。
酷く、記憶が曖昧であることに気がつく。自身の名前、出身地、ここに来る以前の記憶、それら全てを消失しているようだった。
激しい眩暈に見舞われながら、死体をうつ伏せから仰向けにひっくり返す。
僕は彼女を知っている、と思った。
彼女には名前が無かった。それは僕も同じで、僕らは名前が無いままここに入れられていたのだ。
彼女の首には、両手で首を絞めた痕があった。その痕に手を当てると、痕は僕の手の大きさにぴったり当てはまった。
自分が呼吸することを忘れていたことに気がつき、ふと何の気なしに頭上を見やる。いつの間にか大量の汗をかいていたらしく、目が汗で沁みた。
位置的に死体があったのであまり近づかなかったということもあり、見逃していたが、人が一人入れるくらいの点検口らしきものがあることに気づいた。
滲む視界の中で歪む点検口。
そこで、僕は麻痺していた記憶を鮮明に取り戻すことが出来た。
彼女の声を思い出すことが出来た。
「私、ここを出たいわ」
そうだ、彼女はこの部屋を出たいと言った。
ソファを踏み台にして、僕に肩車をしてもらって、自分だけ点検口を開けて、ここを出たいと申し出たのだ。
僕は、彼女に取り残されるのが嫌で、そのことに腹を立てて、彼女の細い首をこの手で絞めた。
彼女の顔をこれ以上見るのは精神衛生上よろしくないと判断した僕は、彼女をうつ伏せに戻し、よろけた足取りでソファへと逃げ戻り、もう一度眠りに付いた。
この一連の動作を僕は何度繰り返しているのだろうと考えながら、眠りに付いた。
更新日:2015-11-15 09:48:27