• 4 / 56 ページ

4 煙草



 「高野サイキックって、知ってますか?」、俺に抱き付いたそいつが言う。

 「僕はそこの次男坊ですよ。」、クスリと笑う。



 「知らないな。」、その手を振りほどきながら答えると

 



 「じゃあ、ワンショットバーのサイキックなら覚えてますか?」、また俺に

抱き付く。

 「その3階で、色んな事してましたよね、崎さん?」、またクスリと笑う。



 「知らないな。」、あくまでも相手の手には乗らない。



 「ふうん、女は抱き放題だった崎さんがなんで男に夢中なんですか?

もしかして葉山さんてホントは女だったりして?、一度確かめてみても

いいですか?崎さん?」、挑発するようなその台詞に目をつぶる。



 「生きていたかったら、余計なことは考えないほうがいいぞ」、俺の怒り

が見えていないのか、まだ話続ける。



 「葉山さんて、きっと崎さんの不利になることには自分の身を差し出して

でも何とかしようとするタイプですよね。

 きっと、崎さんの昔の話とかしたら口止めに自分を簡単に開くだろなあ。

 崎さんが、僕の話を聞いてくれないなら、葉山さんと話をした方が早い

みたいですね。」、今度は、クククク・・と厭らしく笑う。



 「俺が昔遊んでいたことなんか、強請のネタにもならないぞ。NYじゃ

どこにでも溢れてる話だろうが、だいたい店を知ってるってことはお前も

同じだろうが?」、そいつを突き放しながら言うと



 「僕の目的は、葉山さんですから。あ、崎さんの大事にしている葉山さん

じゃないと駄目ですけどね。 大切な物を目の前で頂いてそして壊して、

それで目的が達成できるんですから、だから、あなたの知らないところで

葉山さんを壊しても意味がない。崎さんが手出しできない状態で葉山さん

を壊さなきゃね。今まで崎さんがしてきたようにね。」、ククク・・・。



 「お前、だれだ?何が目的だ?」、思い出せない、こいつは誰だ?



 「ふふふふ、まずはそこからですね。ヒントなんていらないでしょ、電話

一つでFグループから僕の情報なんて容易に手に入る。

 ただ、あなたが昔しでかした色々な悪い事は、もみ消されているのなら

 僕の情報もないのかもしれないけど。」、ククク・・・・。



 「しっかり、葉山さんを守ってくださいね。テリウスさん。」、じゃあ。

  

 そう言って高野は屋上から去って行った。



 「・・・テリウスだと。」、一気に血の気が引いた。



  たった、10分ほどの会話が恐ろしく時間を要した気がする。すぐに

託生のところに戻れる気分ではなかった。

 自分の煙草を持参していなかったので、屋上の出入り口上部に隠し

てある誰とも所有者を特定しないその煙草に手を伸ばす。



 メンソールのその煙が2年前を思い出させた。






更新日:2013-11-11 23:46:52

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook