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襟首掴んで、引き起こす。
ユノは、ん? って、顔してる。

「シャワー浴びた後もちょっと練習しててさ。
 テミンには僕のベッドで寝ていいって言っておいたんだけど」

だからその時点で間違いなんだよ。
何で俺と寝るベッドにテミンを寝かすんだ!!!

「テミンがシャワー浴びてる間に眠くなっちゃって、
 ベッドの脇で寝てたら、テミンが……」
「が?」
「僕にベッドで寝てくださいって。自分はソファで寝るからって。
 そういうわけにもいかないじゃん」

くううう……。
そのくだりを聞いてるだけで、あの部屋で二人がどんな雰囲気だったか。
考えるだけではらわたが煮えくり返る。

「僕、チャンミンのところで寝ようと思ったんだけど、
 それなら、ベッド大きいし、一緒に寝ましょうって、言ってくれて」
「言ってくれて、だぁ?」

「うん。だから、一緒に寝たよ」
本気で一切なんてことなく、言ってくれると。
怒りを通り越して呆れる。

自分だけムカついてるのバカみたいだから。
ユノの襟首を掴んだ手、離した。

「……おやすみなさい」
「ん?」

今日は、もう、顔も見たくない。
信じられない。
あのベッドで、ふたりで寝たなんて。
許せない。俺の場所なのに許せない。

リビングを、出て行こうとすると。
ユノが後ろから、抱きついて来る。

振りほどこうとすると、ユノは。
「なんで怒ってるの?」って、聞くから。

怒ってる理由が分からないなら、そんなことすんな。
あんたはいつだってそうだ。
誰にでも優しくて、だからこそ、一番になった気がしない。
あなたの一番になりたいのに、いつも。
あなたは、そのとき目の前にいる人がいつも、一番だから。

「怒ってないよ」
「すんごく怒ってるよ、オーラが違うもん」

「誰のせいですか?」
「ユノのせい?」

自分で自分を名前呼び、すんな。

「わかってんなら、離して下さい」
「やーだ」

ぐいっと、強引に振り向かせられて。
ユノは僕を見つめる。
子供を諭すような、甘い優しい目で、僕を見つめて。

「テミン、連れて帰っちゃ、いけなかった?」
「……別に」

「一緒に練習してたし、いろいろ話したかったんだ」
「家に、連れてこなくたって」

「時間も、遅かったし」
「レッスン場でも、よかったでしょ」

「みんないたしさ」
「それでいいんですよ」

ふたりきりになんか、させたくなかった。
わがままだって、わかってる。
俺のキャラじゃないって、わかってるけど、でも。

「……ごめん」

優しく、抱き寄せられて。
……ムカつく。
結局俺はこの胸の中が一番、落ち着くから。

「ここは、俺たちの家ですよ」
「……うん」

「俺たちだけの、場所です」
「……うん」

その胸の中で、抱きしめられて。
背中を優しく、さすってもらうと。

いつだってそう、涙は、あふれ出て。
そして必ず、温かい気持ちになって、おさまってゆく。

「今度はちゃんと、言うから」
「えっ?」

「あれ、違うの?」
「……だから……もー!」

きょとんとした顔の、ユノ。
ぜんっぜん、わかってない。

それでも。
だからこそあなたは、多くの人を惹きつける。
その深い懐で、誰の心をも抱きしめて、癒して。

でも、さ。
この胸だけは、俺のためだけに取っておいて。
誰にも渡したくないんだ。
いや、渡さない。


右目から零れ落ちる涙の雫を。
ユノは、唇で拭って。

「……お帰り」
「だからさっきそれは……」

「寂しかった。……会いたかった」

……ああ。

こうしていつも俺は、あなたに。
何度でも、恋をする。

誰にでも優しくて甘くてかっこよくて。
だけど、俺だけのもの。


せめて。
心ごと愛し合う相手は、俺だけにしてよ。

キスしながら。
まったくこの天然というものは、どうすれば治るんだって。
そればっかり、考えていた。

更新日:2022-01-15 19:46:10

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