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広八は今、フィールドの片隅で一体の敵の忍びに対峙していた。

ぶつかる敵とはすべて打ち合ったが、

気が付けば眼前の敵と差しで向かいあっていた。



敵軍の兵キャラはいつも通り赤い備えで統一されている。



湿気を含んで黒ずんだ味方の青い備えは

梅雨時の戦場を描いた水墨画にも馴染んだが、

誤ってこぼした朱墨のような敵の赤い忍び装束は、

異様なまでにその絵画には不釣り合いだった。



黒と白の濃度の変化だけで描かれた戦場で、視界に映る唯一の緋色。

水墨画の静謐を汚す妖しき紅。

「異彩」の忍びはしかし、かなりの腕利きだった。



すでに広八と十合以上にわたって打ち合い続けているが

怯んだ様子は窺えない。

お互いの敵陣で鉄砲の斉射にさらされたため、

【アラート】が灯るほどではなかったが受けた手傷も双方ともに浅くはなかった。



だが広八とは対照的に、敵の忍びは冷ややかな余裕を漂わせている。



(こ奴、下忍か)

広八は訝った。

下忍とは【母衣】と【火遁】の術をあわせて修得していない忍者を指す。

それらは白兵戦で必要とされる【特殊能力】には非ず、

剣の腕前のみが広八と互角であったとて不思議ではない。



だとすれば、頭巾の下からのぞくやけに涼し気な眼光にも合点がゆく。

重く暑苦しい枷に縛られているのは、広八だけかもしれなかったからだ。



【戦国じゃんぶる】の一流の忍者は、

その忍び装束の下に特殊な鋼線で編み上げた帷子(かたびら)を纏って戦う。


鉄の糸で紡がれた、矢玉ですらも貫くことの敵わぬ鎧。


【火遁】の術が考案されて以来、

戦国の技術の粋を集めた鋼線帷子は、

発展を続ける鉄砲の対抗兵器として十分な戦果をあげていただけでなく

忍びを忍びたらしめる所以ともなっていた。

鋼線帷子で武装し、軍団全体の盾となって合戦で常に矢面に立つ、

それができる者にしか、忍びが果たすべき務めの数々を遂行することは不可能だった。



人型に編まれた奇妙な着物のような鋼線帷子は

前合わせの忍び装束とは異なり、頭から被って袖を通す。

少しごわついた厚手の生地にも見えるが、

身体の動きを阻害せぬようさらなる強度を増すために

その表面には一辺が一寸ほどの鉄片が細かく縫い付けられており、

見た目よりも遥かに重量があった。

故に、これを着込んで激しい戦闘をこなすには

厳しい修練によって鍛えぬいた肉体と忍法の秘伝を駆使する必要があったが

それらを兼ね備える才能を持ってしても、鉛玉が命中すれば良くて大痣、

帷子の上から骨を砕かれることも珍しくはなかった。



広八の青い忍び装束、その前合わせの胸元からも

目の細かい黒色の網のような帷子がのぞいていた。

忍び装束の七分袖から下で帷子はむき出しになり、

下腕を覆っている部位にはさらに籠手と手甲を重ねてある。



鋼線帷子で重武装してなお、

【脚5】で戦場を駆け、【技量A】で術を繰り出す広八こそは

まさしく軍団の主力たるに相応しい忍者の範と言えた。



更新日:2017-06-04 03:44:28

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