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小説

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序章4 -Abreise-

「やめるんだ!!」
 まさに鶴の一声。その声が響くと同時に、首を掴んでいたリザードンの力が弱まる。
「ピカチュウ、お前……いいのかよ、こんな奴が」
「言い訳は聞かないよ、リザードン。どんな理由があれ、君がサトシのポケモンである以上、同じサトシのポケモンを傷つけることを、僕は許すつもりはないよ!」
 顔を声のしたほうへ向ける。そこにはいつものように、小さな身体で胸を張る黄色い影がいた。
 ピカチュウ。サトシと最初にパートナーとなった俺達の大先輩にして、俺達の纏め役だ。
 彼の経験と人徳もあって、サトシと共に生きるポケモンは皆、どんなに身体が大きくてもピカチュウにだけは絶対に頭が上がらない。それはこのリザードンとて同じだ。
「……ちっ」
 リザードンが手を離す。爪を立てられていた首筋が、まだ僅かに痛んでいた。
「今日はここまでにしといてやる。だが言っておくぞ。結論は早く出せ。遅くなればそれだけ皆がお前のせいで迷惑を被る事になる……忘れない事だ」
 吐き捨てるように言い放ち、リザードンはきびすを返した。
 抑圧された怒りが吹き出しているかのように、尻尾の焔がゆらめいていた。



「ごめんね。あいつ、バトルの事となるとすぐに熱くなっちゃうから」
「熱くなっちゃう、で済む話じゃないですよ、アレ」
「まあ……ね。後でリザードンには厳しく言っておくからさ」
 リザードンが去った後、恐らくは俺に向けて発されたであろうピカチュウの言葉に、オオスバメが答えていた。
 当の俺はというと、ついさっきまで上に登って昼寝をしていた木の根本に腰掛けて、何をするでもなくぼんやりしている。ああいった他愛もない会話はどうも苦手だ。
「そういえば、まだ君達には話してなかったね。リザードンが僕らの仲間になったわけ。
 ……あいつ、僕らの仲間になる前は、サトシとは別のトレーナーの所にいたんだ。その頃はまだヒトカゲだったんだけどね。
 でも、そのトレーナーにあいつは捨てられたんだよ。弱いから、ってだけの理由でね」
「へーえ、あのリザードンが……」
 ピカチュウが、あのリザードンの事をオオスバメに話している。ひとまず、俺は聞くことに徹し続ける。
「だから、リザードンはバトルの強さにこだわるのさ。自分は強くなければいけない、そうでなければまたあの時のように捨てられる……きっと、リザードンはそう思ってるんだ。だから、リザードンはあそこまで強くなれたし、バトルの事で悩んでるジュカインに向かってあんな事をしてしまうんだとも思う」
 なるほど、そういう事情があったのか。だが俺にとっては知ったことじゃない。過去にどんな事があろうが、あんな事をしていい理由になどなるものか。
「弱いからって理由でポケモンを捨てるなんて、そんなことをサトシがする訳が無いよ。本当はあいつだって、そのことを分かってると思うんだけどな……」
 寂しげな声で、ピカチュウは呟いた。
 全くもって人のいい奴だと思う。ピカチュウが誰かの悪口を言っているような様子を、俺は見たことが無い。だからこそ、皆に慕われてもいるのだろうけれど。



「そろそろ日も暮れるね、みんな、センターに戻ろう。
 ……ほらジュカイン、君もだよ」
「えっ」
 自分の事を不意に呼ばれ、一瞬ぎくりとする。
「何びっくりしてるのさ。ただ一緒に帰ろう、ってだけの話だよ?」
「あ、ああ……」
 リザードンとのいざこざの余韻だろうか、少し神経質になっていたようだ。
 深呼吸して、気分を落ち着かせる。大丈夫。とりあえず今は、リザードンの存在を気にする必要は無い。でも。
「考え事はまた明日にしなよ。今日はご飯を食べて、ゆっくり休もう。ね?」
「……ああ、そうさせてもらう」
 別にピカチュウの許しがいるわけでもあるまいに、俺はピカチュウにそう返す。
 思えば、考えるのにもすっかり疲れてしまったように感じる。考えることにも、存外力を使うものだ。
 ここは大人しく、彼の提案に乗っておこう。
 そう思って、俺はピカチュウとオオスバメに続いて歩き出した。

更新日:2013-08-26 20:35:09