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序章3 -Abend-

 目が醒める。
 もう日は西へ傾き始めていた。昼寝を始めてからそれなりに時間は経っていたらしい。
 そろそろ降りようか、と身体を動かすと、昨日の傷がわずかに痛んだ。



「ようジュカイン、具合はどうだい?」
 馴染みの声が聞こえてきた。
 ばさばさ、と羽音を立てつつ、そいつは俺の目の前に舞い降りた。
「まぁ、な。そっちこそもう飛んで大丈夫なのか?」
「はは、俺がそんな事で飛ぶのをやめるような根性無しだと思うか?」
「そう言うと思ったよ。相変わらずだなオオスバメ」
 このオオスバメは、俺が"ポケモントレーナー"の許に腰を据えるようになってからの付き合いで、一番の話し相手でもある。
 本当は彼にも彼自身を指す名前があるのだろうが、ここで生きている分には固有の名前で彼を呼ぶ必要が無いため、結局皆種族の名前で呼び合うしきたりのようなものが出来あがってしまっている。
 そんな俺自身も、もう長い事固有の名前で呼ばれた事が無い。自分にどんな名前があったかさえ、もう思い出せなくなってしまった。
 まあ、今となってはその必要も無いわけで、そのせいで困るような事は何も無いから、それでいいのだが。
「今回も、残念だったな……また、あいつの夢、叶えてやれなかった」
「……ああ」
「いや、でもお前は頑張ったよ。相手が悪かったんだ。この俺でさえほんの3発でノックアウトさせちまうような奴だ」
「ああ」
「……いやー、もっと俺達強くならなきゃな。そうでなきゃまたあいつに顔向けできねえよな、な!」
「……まあ、な」
「……おい、どうした? なんか機嫌悪そうだな?」
「別に」
 とにかくその話を終わりにさせたくて、俺は適当な答えを投げつけ続けた。



 ポケモンバトル。
 ニンゲンの世界で大流行りだというその競技の世界に、俺達は身を置いている。
 具体的にどんなものか、と言うと、かいつまんで言えば"見世物としての戦い"といったところだろうか。
 俺達ポケモンには、何故かは知らないが他のどんな生き物さえ持ち合わせていないような、強力な攻撃手段を生身で繰り出す力がある。
 ただ生きているだけでは持て余し気味なその力に、目を付けたニンゲンが作りだしたのがポケモンバトルなのだという。
 持てる力を極限まで鍛えたポケモンによる、持てる力全てのぶつけ合い。ニンゲン達はそれを眺めることで、この上ない刺激と熱狂を味わうのだそうだ。
 だが、戦いの矢面に立ち、身体を張る俺達ポケモンにしてみれば、単刀直入に言って刺激も熱狂もクソもあった物ではない。
 大怪我なんぞ日常茶飯事、下手をすれば命を持っていかれかねない戦いを、毎日のようにさせられる。それが、俺の毎日だ。



「……他の連中には言わねえからさ、話してみろよ」
 急に話を切り替えるオオスバメ。口ぶりも、根性馬鹿のあいつとは思えないほど穏やかになっている。
「何をだ」
「俺がそれくらいの事も察せないような馬鹿だと思うか?」
「根性馬鹿の鳥頭が言える台詞かよ」
「おいおい、ひでえ事言うな」
 けらけらと笑いながら、オオスバメは言った。
「最近お前、バトルにあんまり良い気持ちを持ってないんじゃないかい?
 あ、最初に言っとくけどその事ををどうこう言ったりするつもりはさらさら無いぜ。俺はあんたの考え、大事にすっからさ。
 ……悩んでるなら、俺に話してくれよ。愚痴を聞くことくらいならいくらでもしてやるからさ」
「全く、お前らしくも無い事を」
 強がりを返しつつ、やはりこいつには筒抜けだったか、と、誰にも気づかれぬよう隠していたつもりだった自分を嘲る。
「愚痴を聞くくらいしかしてくれないんだろ? だから、俺が今から言う事は全部只の愚痴だ。深い意味なんて無い。その事をふまえて聞いてくれ」
 よくもまあこんな大仰な前振りを言えたものだ、と自分に呆れる。
「あいよ。さあ言ってみな」
 待ってましたとばかりに、オオスバメは返した。
「分からないんだ、俺のしたい事が。俺が俺として生きるために、しなきゃならない事がさ。
 確かにあいつには、独りで生きてた俺を拾い上げて、広い世界を見せてくれた恩も、情もある。
 でも、最近思うんだよ。俺は、もうポケモンバトルなんてしたくないって、心の何処かで思ってるんじゃないかってさ」
「……ほうほう」
「でも、じゃあバトルから身を引いて、あいつの許を離れるとして、どうやって生きて行けばいいのか……それも分からなくて、どん詰まりさ。
 俺には帰る場所も、行く宛ても無い。ここでバトルしながら生きている事しか、俺には出来ないのかもしれない。だけど、そうではありたくない、って気持ちも、どうにも捨てきれなくてな」

更新日:2013-08-26 20:30:44