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殺気を感じた。
ほとんど反射的に、私は鐘楼を飛び出していた。
直後、鐘楼の壁が砕ける。
衝撃に煽られ、安定を失った私の身体は、もんどり打って石畳の通路に叩き付けられた。
平衡感覚が完全に狂う。上を向いているのか下を向いているのか、動きが止まった時にはまるで見当が付かなかった。
彼方から襲い来る砲弾の風を切る音でもなければ、鉄の車の唸り声でも無い、耳につくような甲高い音が、戦場に響き渡っていた。
狂っていた平衡感覚が、やっと元に戻りだす。
甲高い音に、悲鳴が混じっているのが分かった。一体何が起きている?
痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。
「てめえええええええ!!」
ロッツの声。長い事チームを組んでいた私でさえ耳にした事のない、怒髪天を衝くがごとき怒りを孕んだ怒号。
顔を上げ、声の方へ顔を向ける。
額から剣を伸ばしたロッツが、何かと組み合っている。
少なくともニンゲンではない。ポケモン、それもロッツよりもずっと小柄なものだ。
しかし、剛力で名を馳せるロッツを相手にしながら、相手はそれに全く押されていない。むしろ、ロッツを押しているようにさえ見える。
まずい。本能が私に訴えた。
「ロッツ、今行くぞ!!」
よろめく脚を無理矢理動かし、私は駆けだした。
だが、その刹那。
相手のポケモンの腰から、突然2つの光が放たれる。
それと同時に、ロッツの巨躯が、まるで砲弾のように勢いよく弾け飛ばされる。光を放ったそのポケモンと、諸共にだ。
強烈な風圧が私に襲いかかり、脚を止められる。
瞬間、大音が響く。煉瓦の壁が壊れ、崩れる音だ。
ロッツが兵舎の壁に叩きつけられたのだ。
躊躇している暇は無い。早くロッツを。
私は後を追って駆けだそうとした。だが。
「ぐあああ!……ぎ」
うめき声をあげるや否や、ロッツの声は突然に途切れた。
何が起きたのかはすぐに分かった。
間に合わなかった。
ロッツは殺された。目の前の、あんな小さなポケモンに。
……いや、こいつは果たして、ポケモンなのだろうか?
ロッツを仕留め、次の獲物――今そいつが目の前にしている、私に目を据える相手の姿を見て、私は思った。
全体的な影は、小柄な竜型ポケモンのそれだった。だが、その見た目はどんなポケモンと似ても似つかない。
見てくれだけで硬さが伝わる灰色の外殻が、全身を覆っている。唯一、右の肩だけが蒼く浮き上がっている様は、見ているこちらに言いようの無い不気味さを感じさせた。
腰からは鳥のようにしなやかには動きそうも無い翼が生え、頭部には口も耳も鼻も見当たらない。ただ、黄色に光る黒目の無い眼が、こちらを見据えている。
左手に携えた、血に染まりながらも緑の光を放つ武器を構え、そいつが駆けだすその瞬間まで、私はそのえも言われぬ姿に圧倒されていた。
ロッツの仇だ。
一撃を受け、いなしてから反撃する。
剣を伸ばして、私は振り下ろされた相手の光る武器を受け止めた。
体じゅうに衝撃が走る。
流し切れるか。
そう思った次の瞬間。
奴は私の身体を、勢いよく蹴り飛ばした。
身体が浮く。
投げ出された身体を立て直す間もなく、私の体は地面に叩き付けられた。
ダメだ、力押しではこいつには全く敵わない。何か他の手を――
考える隙すら、相手は与えなかった。
焼け付くような感覚が、私の身体を貫いた。それも、何度も。
最早私に、立ち上がる力は残されていなかった。
それでも必死に、最後の力を振り絞って、敵の姿を見る。
私を貫いたであろう武器を右手に携え、同じように私を見据えるそいつ。
何と言う事だ。こいつにとっては、近衛兵団精鋭の我々ですら、一蹴できる程度の相手でしか無いということなのか。
認めない。認められるか。こんな事が。
シテーピ、すまない。
私は、何の力にもなれなかった――――
ほとんど反射的に、私は鐘楼を飛び出していた。
直後、鐘楼の壁が砕ける。
衝撃に煽られ、安定を失った私の身体は、もんどり打って石畳の通路に叩き付けられた。
平衡感覚が完全に狂う。上を向いているのか下を向いているのか、動きが止まった時にはまるで見当が付かなかった。
彼方から襲い来る砲弾の風を切る音でもなければ、鉄の車の唸り声でも無い、耳につくような甲高い音が、戦場に響き渡っていた。
狂っていた平衡感覚が、やっと元に戻りだす。
甲高い音に、悲鳴が混じっているのが分かった。一体何が起きている?
痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。
「てめえええええええ!!」
ロッツの声。長い事チームを組んでいた私でさえ耳にした事のない、怒髪天を衝くがごとき怒りを孕んだ怒号。
顔を上げ、声の方へ顔を向ける。
額から剣を伸ばしたロッツが、何かと組み合っている。
少なくともニンゲンではない。ポケモン、それもロッツよりもずっと小柄なものだ。
しかし、剛力で名を馳せるロッツを相手にしながら、相手はそれに全く押されていない。むしろ、ロッツを押しているようにさえ見える。
まずい。本能が私に訴えた。
「ロッツ、今行くぞ!!」
よろめく脚を無理矢理動かし、私は駆けだした。
だが、その刹那。
相手のポケモンの腰から、突然2つの光が放たれる。
それと同時に、ロッツの巨躯が、まるで砲弾のように勢いよく弾け飛ばされる。光を放ったそのポケモンと、諸共にだ。
強烈な風圧が私に襲いかかり、脚を止められる。
瞬間、大音が響く。煉瓦の壁が壊れ、崩れる音だ。
ロッツが兵舎の壁に叩きつけられたのだ。
躊躇している暇は無い。早くロッツを。
私は後を追って駆けだそうとした。だが。
「ぐあああ!……ぎ」
うめき声をあげるや否や、ロッツの声は突然に途切れた。
何が起きたのかはすぐに分かった。
間に合わなかった。
ロッツは殺された。目の前の、あんな小さなポケモンに。
……いや、こいつは果たして、ポケモンなのだろうか?
ロッツを仕留め、次の獲物――今そいつが目の前にしている、私に目を据える相手の姿を見て、私は思った。
全体的な影は、小柄な竜型ポケモンのそれだった。だが、その見た目はどんなポケモンと似ても似つかない。
見てくれだけで硬さが伝わる灰色の外殻が、全身を覆っている。唯一、右の肩だけが蒼く浮き上がっている様は、見ているこちらに言いようの無い不気味さを感じさせた。
腰からは鳥のようにしなやかには動きそうも無い翼が生え、頭部には口も耳も鼻も見当たらない。ただ、黄色に光る黒目の無い眼が、こちらを見据えている。
左手に携えた、血に染まりながらも緑の光を放つ武器を構え、そいつが駆けだすその瞬間まで、私はそのえも言われぬ姿に圧倒されていた。
ロッツの仇だ。
一撃を受け、いなしてから反撃する。
剣を伸ばして、私は振り下ろされた相手の光る武器を受け止めた。
体じゅうに衝撃が走る。
流し切れるか。
そう思った次の瞬間。
奴は私の身体を、勢いよく蹴り飛ばした。
身体が浮く。
投げ出された身体を立て直す間もなく、私の体は地面に叩き付けられた。
ダメだ、力押しではこいつには全く敵わない。何か他の手を――
考える隙すら、相手は与えなかった。
焼け付くような感覚が、私の身体を貫いた。それも、何度も。
最早私に、立ち上がる力は残されていなかった。
それでも必死に、最後の力を振り絞って、敵の姿を見る。
私を貫いたであろう武器を右手に携え、同じように私を見据えるそいつ。
何と言う事だ。こいつにとっては、近衛兵団精鋭の我々ですら、一蹴できる程度の相手でしか無いということなのか。
認めない。認められるか。こんな事が。
シテーピ、すまない。
私は、何の力にもなれなかった――――
更新日:2014-04-20 17:18:25