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小説

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序章2 -Bewoelkt-

 耳をつんざく轟音。聴覚が麻痺しそうだ。
 思った通りだ。奴らが仕掛けてこなかったのは、砲撃が城壁の上の我々を吹き飛ばすのを待っていたからだ。
 あのひらめきが一瞬でも遅かったら、私も諸共に吹き飛ばされていたに違いない。
「シテーピ! おい、しっかりしろ!」
「ぐ……畜生……ッ!」
 ロッツとシテーピの声。
「どうした、シテーピ!」
「足を……やられた!!」
 見ると、シテーピの右後ろ脚の腿に、砲弾の破片が深く突き刺さっていた。
 それ以外には目立った傷も無い。適切な処置をすれば命に別条は無いだろう。しかし。
「おのれ……ッ!」
 立ちあがろうとするシテーピ。だが、それは叶わず、糸の切れた操り人形のようにくずおれてしまう。
「おい馬鹿やめろ! 傷口が開いちまう!」
「知るもんか! 奴らに一矢報いるまでは……ぐぅっ!!」
 シテーピは歯を食いしばり、なおも立ちあがろうとする。
 もう見ていられない。私は前足でシテーピの体を踏みつけ、無理矢理彼女の体を抑え込んだ。
「何をするんだハディード、離してくれ!」
「大人しくしていろ!……衛生兵! 衛生兵はいるか!」
 シテーピに一喝して、私は衛生兵を呼ぶ。
「司令! いかがなされましたか!」
 すぐさま衛生班の腕章を付けたハピナスが駆け付けてきた。
「彼女の手当てを頼む。この傷ではもう戦えん」
「そんな事は無い! 私も聖剣士だ、これしきの傷……」
 なおも反論を続けるシテーピ。
「黙れッ!」
 もう手段は選びようがなかった。
「強みの健脚を動かせないお前に何が出来る? お前がこれ以上ここにいても出来る事は何も無い! 黙って後方へ下がれッ! これはこの城を任された、司令としての命令だッ!!」
 目を見開くシテーピ。当然だろう。信頼していたであろう戦友に、冷徹な暴言を吐き捨てられたのだから。
 衛生兵のハピナスも、呆気に取られた顔でこちらを見ていた。
「……今から、私は鐘楼へ向かう。手筈通りに頼むぞ」
 無理矢理張り上げていた感情を自分で宥めつつ、私はハピナスに命じた。
 そして私はきびすを返す。シテーピは何も言わなかった。



「良かったのかよ、あんな事言っちまって」
 ついてきたロッツが言う。
「それ以外の方法は思い付かなかった。彼女ひとりにいつまでも時間をかけてもいられなかったしな」
「まあな。けどよ……」
 彼が言わんとしていることは分かっている。
 しんがりとなる我々は、シテーピの顔を見ることも、声を聞くことも、もはや叶わないかもしれないのだ。
 永別となりかねない別れが、このような形で良かったのだろうか、と思わずにはいられないのは事実だ。
 だが、戦うことはもはや叶わぬシテーピをこの場に置いても、ただ犬死にをさせるだけなのは目に見えている。いや、まともに抵抗も出来ない彼女を待っているのは、死よりもむごたらしい仕打ちである可能性さえある。
 彼女は、衛生班とともに撤退することを生き恥だと思うかもしれない。だが、戦う力をなくした存在を戦場に残しておくことは、この戦いの目的、ひいては私の信条に反することだ。
「お前も聞いたな。鐘を鳴らす」
 ロッツの問いには答えずに、私は城の鐘楼へ駆け込んだ。
 鐘を鳴らした時、作戦は防衛戦から、撤退戦へと切り替わる。私やロッツを含めた精鋭部隊をしんがりに、部隊を王子と同じ経路で撤退させるのだ。
 窮地に立たされた我々近衛兵団にも、希望の光は残っている。その希望をふいにしないためにも今は、ひとりでも多くの兵を生き延びさせることが必要だ。
 鐘楼を登り、号鐘の紐を引く。
 甲高い金属音。重苦しい低音ばかりが轟く戦場に、不釣り合いな高音は高らかに響き渡る。
 みんな、生きてくれ。
 願いを鐘の音に託しつつ、私は紐を何度も引き続けた。


 その時。

更新日:2013-08-26 20:28:46