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第10章:飼い主問答

 カチ、コチ、カチ、コチ…………
 時計の音が部屋に虚しく響き渡る、勝手知ったるリビングにて。
 俺は非常に困った場面に立たされていた。
「それで、いつになったら話してくれるのかな?」
 俺の対面、むすっとした表情でこちらを睨んでくるのは言わずもがな回向院。 俺はため息交じりに「正直に話すぞ」と前置きしながら横でちょこんっと腰かけるミカンを指差しながら
「こいつ、捨て猫が化けてるって言ったら信じるか?」
「……はぁ?」
 案の定返ってきたのはそんな唸り声だった。まぁ信じてもらえるなんて思ってもないし、そこは予想の範疇。俺は回向院に口を挟む暇を与えないよう矢継ぎ早に言葉を続ける。なんせ、前にも一度似たようなことをうっかり口にしてあらぬ疑いをかけられたからな。
「最近、すげー雨が降った日があっただろ? そん時に近くで捨て猫を拾ったんだよ、俺。そんで、目が覚めたら拾ってきた猫が人に化けてたんだ」
「雨……捨て猫……」
 俺の言葉に回向院は何か思うところがあったのか、ぶつぶつと俺の言葉を反芻すると念押しするように俺とミカンの顔を交互に眺めながら
「その猫って、どんな猫だったの?」
「どんなって……まぁ、ごくごく一般的っつーか、よく見るようなやつ」
「アメショー、とかかな。でも最近ならスコティッシュも多いだろうけど……何か他に特徴は?」
「いや、特にねーけど……あ、性別はオスだな」
「……」
 あ、なんだその眼は。いかにも「この役立たず」と言わんばかりの目は。そんな顔されても仕方ないだろ、猫の特徴なんてそうそう印象に残らな――
「あっ」
 ――あった。あったんだが……これは、どうしたものか……
 俺がどうしたものかと判断に困っているとその気配を察したのだろう、回向院は「何か思い出した?」と問いつめてきた。
「えっとだな、なんつーか、猫の特徴って言っていいのか分からないんだが」
「なんだか煮え切らないなぁ。なんでもいいから教えてよ。そしたら信じてあげないこともないんだからさ」
 おぉ? 信じて……くれるのか。こんなマンガみたいな話を。
 それならと俺も意を決して、答えるべきか迷っていた《ミカンの特徴》を告げる。

更新日:2017-07-24 01:44:52

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