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第8章:捨て猫、告白


「ま、前の! 前のご主人様ですご主人様!」

 俺が話を聞いていなかったとでも思ったのか、ミカンはまくしたてるようにそう繰り返すしながら回向院の顔へしなやかな指をズビシッと指す。
「サッちゃんですよサッちゃん! そうですよねサッちゃん!?」
「え、えぇ? いや、いきなりそんなこと言われても訳が分からないんだけど……」
 ミカンにぐぐいっと迫られて困惑しながらも回向院は「どういうこと?」と言わんばかりに俺へ視線を向けてくる。そしてそれを真似るようにミカンもこっちをくるり。
 そうやって二人が顔を合わせているとますますそっくりなところが目立つわけで。そんな一人と一匹からの追求に俺も俺で状況がよく理解できていないわけで。
「と、とにかく! 先にこっちを片付けようぜ、な!」
 自分でもよほど混乱していたのか、とりあえず目に映るものを反射的に片付けようとしてポテトに視線を向けたのが不味かった。 考えなしに言い放った俺の方へ二人はダンッ!と大きな物音を立てながら身を乗り出してきた。
「先に片付けるのはこっちの問題じゃないかな?」
「そーですそーですっ!」
「お、ぉおお? なんで俺がいかにも悪い感じに責められてるんだ」
「話を誤魔化そうとする男のどこが悪くないのかな?」
「いや、別に誤魔化そうってわけじゃ」
「本当に?」
「それは……」
 莉子にも引けを取らないほどのプレッシャーを放つ回向院につい口を噤んでしまう俺。
 それではだめだとなんとか考えを巡らせようとするのだが、ミカンの〝前のご主人様〟発言を上手く誤魔化せる言い訳がすぐに思いつくはずはなく。
 こうなったら素直に話すしかないのか? しかし、素直に話すと言っても……
(まずはこいつが本当に前の飼い主なのかってとこだが……いきなり猫の捨て猫の話をしても下手に話題を変えて誤魔化そうとしてるとしか思われねーよな)
 しかし、だからといってミカンが何者なのかについて話したとしてもそれはそれで信じてはもらえないだろう。
(捨て猫を拾ったら人間に化けた、なんて言えないよなぁ)
 事実は小説より奇なりとはよく言ったものだが、それを実感できるのは当事者だけである。

更新日:2016-04-24 17:36:17

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