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第4章:捨て猫、放課後にて。

「おぉ! ご主人様! これすごい美味しいです!」
「だってよ、よかったなーコグレ」
「……ハハハ、ソリャーヨカッタ」
 学校を後にした俺達は『お腹が空きました!』とお腹を押さえながら主張するミカンの一言によって近くにあるファーストフード店に足を運んでいた。
 が、さすがに自分の分に加え、初めて見るハンバーガーやシェイク、ポテトの数々に興味を示し、あれがいいこれがいいと無邪気な笑みと共に訴えてくるミカンを満足させるほど俺の財布は潤ってはいない。泣く泣くシェイクを諦めたミカンに罪悪感を感じつつもハンバーガー(勿論ピクルスなんかは抜いてある)と皆で分け合うことにしたポテトで今はご機嫌をとっているところであった。
 というか猫的には塩分とか、そういうのって人間基準で考えて大丈夫なんだろうか。それともそんなことを気にしたらだめなんだろうか。
「……ユーマ、もしお金に困ったらあたしに言ってね。夕飯ぐらいなら多めに作れるから」
「お、おぉ。すまん」
 こっそりとこちらへ耳打ちしてくる幼馴染のお言葉に全力で甘えたいところではあるが、もしそんなことをしようものなら両親――特に父さんに殺されかねん。父さんは今の時代じゃ珍しい堅物で、「男が家族を養い女は家を守るべきだ」という考えの持ち主だからか、異性に甘えるようなことを決して許してはくれなかった。
 だがそれを言うのならミカンの存在がバレた日にはどうなることやら。下手したら俺の命がやばいかもしれん。
「ご主人様! これもすごい美味しいですよ!」
「おぉ、ありがと」
 そんな俺の心配事にはまったく気付くこともなく、満面の笑みを浮かべたままこちらにポテトを差し出してくるミカン。不覚にも「あーん」みたいになってしまったが不可抗力だ。それにこいつは男なんだからそんな怖い顔で睨み付けてくるのはやめてくれませんかね幼馴染よ。さっきまで優しいお言葉を投げかけてくれてた頼りがいのある幼馴染はどこにいったんだ。
「うっらやましー! 自分もミカンちゃんみたいな可愛い子にあーんしてもらいたい! まったく、憎いねぇこのこの!」
「そうやって傍観できるお前が一番羨ましいよ」
 ぐいぐいと肘でこちらの横腹を突っついてくる結城にため息混じりに返しながら俺はコーヒーを流し込んだ。
 言うまでもないが、コーヒーは今の俺の心のように苦かった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

更新日:2015-03-04 00:53:50

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