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4.

25日の勤務は今日の歓送迎会が入っているおかげで、手術の予定もなく落ち着いたものだった。文の病院は2交代制で夜勤が長い。そのために遅出として1人が変則で助っ人で繋いでいるのだ。

「笹森さん。今日は予定通りでさっと上がっちゃってね。」

ぽってりとした体型の夜勤リーダーの梅島が笑顔で文に話しかけてきた。

「場所わかるの?」
「今からだと2次会から合流します。いつものところですよね。」
「うん、駅前の「lamp」だよ。」
「わかりました。」

文が残りの仕事を片付けて帰りの準備をしていると、

「あら?飯島先生?」

ナースステーションの丸テーブルのあたりで梅島が驚きの声を上げる。今日の主役でもある飯島医師が病院に残っていることに驚いている。
飯島はそれに応えようとはしない。黙々とパソコンを操作し指示を出しているようだった。

入力を終えて、

「すみません。少し指示を変更したのでお願いします。」

梅島に対して事務的ではあるが、低姿勢でそう言った。そのあとで、

「今日の歓迎会ですが、今からでも?」
「あら?ちょうどいいわ。笹森さん、先生と一緒に行ってあげたら?」

梅島の突然の提案に、隠れてしまいたくなる衝動に駆られながら文は立ち尽くした。

(こういうのを「青天の霹靂」っていうのか)

飯島は表情なく文の方を見つめる。怒られているわけではないのに、背を正したくなってしまう。きっと断ってくるという期待を裏切って、

「それでは、そうさせていただく。」
(なんで?)

周りにやってきた夜勤看護師がざわめく中で、飯島はまっすぐに文を見据えて目を離さずに梅島の提案を受け入れてしまったのだった。

更新日:2013-07-09 21:46:22

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