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第2話 「はけ口にされて…」

第2話「はけ口にされて…」


僕は、長いあいだウチの両親は仲が良いと思い込んでいた。

実際、仲は悪くなかったと思う。

ひとりっ子だったせいもあり、母が僕をかまい過ぎることに対して父は特になにも言わなかった。

小学校の頃、友だちの家に遊びに行こうとすると、必ず行き方を聞かれた。

しょせん、小学生の行動範囲。

もちろん、友だちの家は歩いて行ける範囲にあった。

しかし、それでも母は毎回順路を確かめた。

説明すると、「その道は、車が多い」だの「裏道から行ったほうが早く着ける」とか、色々なアドバイスをくれた。

この習慣は、高校を卒業するまで続いた。

中学生になった。

僕は、中学生になっても母と風呂に入っていた。

母いわく「お前ひとりで入ると、キレイに洗えていないところがあるから」とのことだった。

この習慣は、中二の秋まで続いた。

中三になった。

担任が、関西にある全寮制の進学校への進学を勧めてくれた。

そこへ入れば、東大・京大も夢ではないとのことだった。

しかし、僕を手放すことに母が頑強に反対した。

そのことで父と母がケンカする声が毎夜家中に響きわたったが、母の頑迷さについに父が折れ、地元の高校に通うことになった、

高校生になると、急激に背が伸びた。

がりがりだった身体に肉がつき、男らしい体型になった。

ちょうど、その頃だった

母が、狙い澄ましたように着替え中に部屋に入ってきたり、風呂の脱衣所を覗くことに気付いた。

しかし、偶然を装って僕の身体を覗きにくる母をとがめる言葉を、僕は持たなかった。

高三の冬、推薦枠で大学が決まったため、親には内緒でつきあっていた彼女とついにセックスをした。

ニヤニヤしながら家に帰ると、僕の部屋でコンドームの箱を見つけた母が、鬼の形相で待っていた。

まだ早いと怒鳴り続ける母を前にうなだれていると、父が帰って来た。

夫婦の寝室にこもって母をなだめ続ける父を、僕は起きて待っていた。

何かひと言あると思ったからだ。

しかし、いくら待っても両親は部屋から出てこなかった。

寝室の前まで行ってみると、中から怒号が漏れ聞こえてきた。

母の「あなたが、してくれないからっ!」という言葉が耳に入り愕然とした。

結局のところ、母は息子を性的な欲求不満のはけ口にしていただけだったのだと気付いたからだ。

彼女と寝る前なら、恐らく母の本音はわからなかっただろう。

僕は、大学のある街へと引っ越す日を早めることに決めた。

更新日:2013-06-20 21:19:57

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