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第1話 「お前のような子は…」

第1話「お前のような子は…」


「お前のような子は、いつか必ず刑務所に入るに決まっている。」

子どもだった頃の、母の口癖である。

もの心づいた時には、既にこう言われていた。

「世の中にはね、悪い子どもを閉じ込める家があって、そこに行くと冷たいご飯しか出してくれないし、オモチャもひとつもないのよ。」

こうも言われた。

「言うことをきかないなら、その家に行かせるわよ。」

少し大きくなり、「刑務所」という言葉がわかるようになると、母は毎日のように刑務所を連発した。

「あんたみたいな子が、刑務所に行くのよね、きっと。」

「刑務所は、いいわよ!三食ただで食べさせれくれるんだから。」

「お前が刑務所に行くとしたら、どんな罪で入れられるのかしらね?」

私は父を知らない。

父は、刑務所にいるのだろうか?

私は、父の代わりに憎まれているのだろうか?

そう思うと悲しかったが、私は父の居場所どころか、名前も知らなかった。

小学校に入学した。

学校は、天国だった。

友だちができたからだ。

友だちは、私を否定しない。

それに、勉強は簡単だった。

努力すれば結果が出るなんて、夢のようだった。

まるで、嘘のように感じた。

家では、なにをどうやっても怒られてばかりなのに、勉強は決して私を裏切らなかった。

私の学校の成績がいいことも、母は気にくわないようだった。

テストで良い点がとれた時に言われた言葉は、こうだ。

「『私は、頭がいい!』なんて、いい気になって詐欺事件とか起こさないでよ!」

年頃になり、少しは見られる容姿になると、今度はこうだった。

「馬鹿な男にだまれて、犯罪の片棒かつがされるんじゃないの?」

ひとりっ子だったので、他とは比べようがないが、母が私を大嫌いだったことだけは確かだ。

私を貶めることが人生最大の喜びであるかのように、いつも母は私を傷つけた。

しかし、どんな環境でも子どもは成長する。

私は、少年院に入ることもなく、高校を卒業し大学に入った。

授業料免除の特待生だった。

二回生からは家を出てひとり暮らしをし、奨学金とアルバイトで生活をまかないながら、自力で大学を卒業した。

卒業後に行った先は、母が言ったように刑務所だった。

公務員試験を受け、刑務官になったのだ。

社会人になってすぐ、母が長年にわたり職場で横領をしていたことが発覚した。

逃げようとした母は車で事故を起こし、二人が死亡、三人に重傷をおわせた。

私の職場は、母が収監されている所とは別の街にある。

刑務官としての私は厳しいことで有名だったが、受刑者に対して理不尽な扱いだけはしないよう注意した。

更新日:2013-06-20 21:20:41

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