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Take a Weapon


 居場所は、奪い取るものだと思っていた。
 どんな時でも、欲しいものを手に入れるためには他人を蹴落とさなければならない。少なくとも俺がいるこの世界の仕組みではそうなっていて、だから俺がそういう考えを持つようになったのも、別に言い訳をしたいわけではないが、仕方のないことだったのだと思う。
 俺には兄が一人いて、俺たちは双子だった。
 だけど、ほんの数十秒の差でつけられた“兄弟”と言う肩書き以前に、欲しいものは力ずくで手に入れるべきであるというただ一点に於いて、俺たちの間には大きな違いがあった。
 何かをして、褒められ、その代償として欲しいものを手に入れてきた俺。
 何もできなくて、同情され、その結果として欲しいものを手に入れてきた兄。
 俺が奪い取る側の人間なら、あいつは確実に奪い取られる側の人間だ。物心がつく頃からそう思っていて、俺は心のどこかで兄を馬鹿にしていたほどに――兄は俺よりも遥かに出来の悪い人間だった。
 ただ、結局それが正しかったかどうかなんてのは問題じゃない。要するに俺は、いつも両親の目を自分に向けたくて必死だったのだ。
 でも、俺が一人で何でも出来れば出来るほどに、両親の目は俺の思惑から外れてどんどん兄の方を向くようになってしまった。
 何も出来ない出来損ないの兄から親として目が離せないのは仕方のないことだが、それを許容するだけの心は当時の俺にはまだなく、その頃には俺は、兄の存在を疎ましいものだと思うようになっていた。
 あの忌まわしい事件が起きたのは、そんな苛立ちが頂点に達しようとしていた頃だった。
 表向きには、無法者の襲撃を受けて偏狭の小さな村で二人の尊い命が奪われたことになっている――“俺の兄が両親を殺害したあの事件”を境に、俺の中で、欲しいものは奪い取るべきなのだと言う思考は、ますます確固たるものとなった。
 だって……思ってしまったんだから、仕方がないだろう?
 兄は両親を独り占めするために――両親を食い殺したんだ……って。
 ……でも、そのすぐ後から、少しずつ俺の世界が変わっていった。
 両親を失ったことで、俺たちは孤児となった。だからこの村で暮らしていくためには、この村のどこかに自分たちの居場所を手に入れなければならないはずなのに、村人は全員が俺たちをそのまま受け入れてくれた。
 まだ子供なんだから、何も出来なくてもいい。
 村長のくれたその言葉が、嫌に心の奥底に楔を打った。
 そして、俺は何も出来なくなった。
 謎の奇病によって、時には全身を動かせなくなるほどに俺の身体の機能は衰弱を極めた。
 何も出来なくていつも俺に遅れをとるしかなかった兄が、生まれて初めて頼もしく見えた。
 ――やっと返せる時が来た。
 兄が俺の看病をしながらそう言った時、何故だか目頭が熱くなった。
 ……違う。
 違うんだよ。
 俺は何も与えてない。ただ、奪おうとしていただけなんだ……。
 だから、返されなきゃいけないものなんて、俺には何も――




更新日:2009-05-18 12:56:46

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