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かくれんぼしませんか
【類→つくし】
古典の時間、前の日のバイトの疲れでうつらうつらしていたら、ヴァイオリンの音色が聞こえてきた。栄徳の音楽の授業には、ヴァイオリンはなかったから、この優しい音色の主はきっと、花沢類。
今日最期の授業終了とともに、音楽室へ。
ところが、いると思った花沢類がいない。
学校の備品のヴァイオリンも、ない。非常階段へも行ってみた。いると思ったところにもいない。
―― どこにいったんだろ
しばらくあたりをあちこちさがしていると、頭上からヴァイオリンの音色が聴こえてきた。
大学の講義をふけて、非常階段に向かうつもりだった。ところが途中の教室でグランドピアノとヴァイオリンが眼にはいった。
久しぶりに弾いてみようか。
俺は簡単に調律をすませると、いつも一番最初に弾く曲を選んだ。自分でもよくわからない。そもそも自分がヴァイオリンだけ興味をもっていること自体不思議だった。
そういえば、牧野を、俺がたまたま気まぐれにヴァイオリンを弾いているときに追い返したことがあったな……
あの頃の思い出は、きっとF4みんなの心に残っているだろう。
―― なんで、あんなひどいことができたのか。
正直にいえば、俺は最初どうでもよかったんだけど、ヴァイオリンの件で顔だけは覚えた。
そういえば、ヴァイオリンなんて聴こえてきたら、牧野はすぐに俺だと気付くだろうな。
少しおかしくなって、ちょっとしたいたずらを考えた。
牧野を相手にかくれんぼをしてやろう。鬼はヴァイオリンを持った俺で、牧野がそれを探す。
一人おかしくわらった。
きっと牧野はのってくる。
放課になったせいか、こころなしかヴァイオリンの音が大きくなった。
この音色は、ぜったいに花沢類。
なんで、あちこちで弾いてるんだろう?
そう考えたとき自分へのいたずらだと気付いた。
―― かくれんぽ
鬼は、花沢類。
探すのは、あたし。
ヴァイオリンの音色の形跡はあるのに、彼はいない。
花沢類、そうでしょ?
あたしが、唯一非常階段から鍵のかかっていない屋上にあがると、いろいろな道具がおいてある箱によりかかるように、案の定、花沢類がにっこりわらった。
―― どうやらつかまったみたいだね。
「もう、あちこちさがしたんだからね」
「だって、かくれんぼだもん簡単に見つかったら面白くないじゃない」
「子供じゃないんだから、かくれんぼなんて……あたし以外の人がきいても意味なんてわからないじゃない」
「牧野以外が聞いても意味無いし」
「ど、どういう意味よ」
ふわりと花沢類の腕が、つくしの身体を包んだ。
抱きしめるのではなく、ただ触れるのでなく、ゆっくりと包んだ。
―― 牧野を抱きしめるときは、いつも緊張する
牧野には、それをいうことができない。
今日も壊してしまいそうで強く抱きしめることができなかった。
ひと一倍強がりの、牧野の弱いところも同時に見てきたのが自分だとわかっているからだと思う。
「鬼がつかまったから、かくれんぼは終わり」
類は、そう言いながら立ち上がった。
優しい抱擁で少しずつ、あの頃の俺たちのしてきたことを返していきたい。つくしのような雑草だって、上から踏みつけられたら傷つけられないはずはない。
だから今日はもう一度。
そして、ふわりと包みこむようにだきしめると、優しい笑み。
―― 牧野、俺はいつでもあんたを守るよ
~FIN~
古典の時間、前の日のバイトの疲れでうつらうつらしていたら、ヴァイオリンの音色が聞こえてきた。栄徳の音楽の授業には、ヴァイオリンはなかったから、この優しい音色の主はきっと、花沢類。
今日最期の授業終了とともに、音楽室へ。
ところが、いると思った花沢類がいない。
学校の備品のヴァイオリンも、ない。非常階段へも行ってみた。いると思ったところにもいない。
―― どこにいったんだろ
しばらくあたりをあちこちさがしていると、頭上からヴァイオリンの音色が聴こえてきた。
大学の講義をふけて、非常階段に向かうつもりだった。ところが途中の教室でグランドピアノとヴァイオリンが眼にはいった。
久しぶりに弾いてみようか。
俺は簡単に調律をすませると、いつも一番最初に弾く曲を選んだ。自分でもよくわからない。そもそも自分がヴァイオリンだけ興味をもっていること自体不思議だった。
そういえば、牧野を、俺がたまたま気まぐれにヴァイオリンを弾いているときに追い返したことがあったな……
あの頃の思い出は、きっとF4みんなの心に残っているだろう。
―― なんで、あんなひどいことができたのか。
正直にいえば、俺は最初どうでもよかったんだけど、ヴァイオリンの件で顔だけは覚えた。
そういえば、ヴァイオリンなんて聴こえてきたら、牧野はすぐに俺だと気付くだろうな。
少しおかしくなって、ちょっとしたいたずらを考えた。
牧野を相手にかくれんぼをしてやろう。鬼はヴァイオリンを持った俺で、牧野がそれを探す。
一人おかしくわらった。
きっと牧野はのってくる。
放課になったせいか、こころなしかヴァイオリンの音が大きくなった。
この音色は、ぜったいに花沢類。
なんで、あちこちで弾いてるんだろう?
そう考えたとき自分へのいたずらだと気付いた。
―― かくれんぽ
鬼は、花沢類。
探すのは、あたし。
ヴァイオリンの音色の形跡はあるのに、彼はいない。
花沢類、そうでしょ?
あたしが、唯一非常階段から鍵のかかっていない屋上にあがると、いろいろな道具がおいてある箱によりかかるように、案の定、花沢類がにっこりわらった。
―― どうやらつかまったみたいだね。
「もう、あちこちさがしたんだからね」
「だって、かくれんぼだもん簡単に見つかったら面白くないじゃない」
「子供じゃないんだから、かくれんぼなんて……あたし以外の人がきいても意味なんてわからないじゃない」
「牧野以外が聞いても意味無いし」
「ど、どういう意味よ」
ふわりと花沢類の腕が、つくしの身体を包んだ。
抱きしめるのではなく、ただ触れるのでなく、ゆっくりと包んだ。
―― 牧野を抱きしめるときは、いつも緊張する
牧野には、それをいうことができない。
今日も壊してしまいそうで強く抱きしめることができなかった。
ひと一倍強がりの、牧野の弱いところも同時に見てきたのが自分だとわかっているからだと思う。
「鬼がつかまったから、かくれんぼは終わり」
類は、そう言いながら立ち上がった。
優しい抱擁で少しずつ、あの頃の俺たちのしてきたことを返していきたい。つくしのような雑草だって、上から踏みつけられたら傷つけられないはずはない。
だから今日はもう一度。
そして、ふわりと包みこむようにだきしめると、優しい笑み。
―― 牧野、俺はいつでもあんたを守るよ
~FIN~
更新日:2013-06-03 20:01:03