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小説

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大きな樹の下で

 ――アルミの山を見つけたんだ。
 そう張り切って出ていった弟のカクシが、夜になっても集落に帰って来なかった。
 婆さまが捜索隊を編成してくれたが、腰が引けた集落の大人たちが探しに行く範囲なんてたかが知れていた。カクシはスクーターに乗って行ったのだ。徒歩で探せる範囲を探したって意味がない。
 日が上った。幸か不幸か、今日も十日連続のからりとした晴天だった。手製のマスクで鼻と口を覆い、燃費が悪い植物性の燃料を満タンにしたスクーターに跨る。私は婆さまにも黙って集落を出発した。
 季節は幸いにも初夏で、外で夜を過ごしても凍え死ぬことはなさそうだった。頭に叩き込まれた辺りの地図を考えながらアクセルを踏み込んだ。カクシが言っていた『アルミの山』の当たりをつける。ここから一番近い、旧市街地までまずは行ってみることに決めた。
 集落を取り囲む針葉樹の雑木林を抜けると唐突に海が視界いっぱいに広がる。瓦礫の山と化した海岸沿いには、旧市街地へと続く古い道路が伸びていた。道路を挟んだ海岸の反対側の台地は、海岸と同じくあちこちに瓦礫の山があり、その合間に点在する針葉樹林ばかりの風景が続く。かつてはたくさんの車が往来していた国道だったその道のアスファルトは随所がひび割れ、砂塵でざらつき、気を抜くと簡単にタイヤを取られた。九歳のカクシの体には大人用のスクーターは大きすぎ、何もなくてもバランスを取るのが難しく、この道ではいまだに滑って転ぶことが多かった。一昨日も転んで手の甲に大きな切り傷を作ったばかりだった。
 四十分ほどスクーターを走らせると、視界の先に旧市街地のビル群が見えてきた。額の皮が突っ張る。空気の乾燥をより強く感じた。ここに来るといつもそうだ。
 旧市街地の手前で私はスクーターを止め、カクシの名を呼んだ。私の声はほとんど響かず、すぐに消えた。スクーターを降り、押しながら旧市街地に入った。
 石畳だったであろう歩道は割れたりずれたりしていて、白っぽい色をした地面がその下に覗いていた。もう何度も見たことがある乗り捨てられた車は、エンジンだけでなくライトやハンドルも抜き取られていてセミの抜けがらのような姿で放置されてサビついている。スクーターのタイヤで、転がっているポールを乗り越えた。砂塵をかぶった信号機だった。散ったガラスの破片を避けて先を進む。大きなヒビが壁に入ったオフィスビル。ガラスがすべてなくなった飲食店らしき建物。傾いてビルに喰い込んだ商店街のアーケード。
 ときおりカクシの名前を呼んだ。が、乾いた風の音がするばかりでなんの反応もない。
 旧市街地を半分ほど抜け、視線を前方斜め上にやった。傾いだ外灯の向こうに、砂塵で霞んではいたが、うっすらと世界樹の影が見えた。

更新日:2013-04-02 22:03:28