こんなにキチンと制服を着るのは、いつ以来だろう。…ていうか最近は、制服自体そんなに着てなかったか。鏡の中の自分を何度も確認する。なんか身が引き締まる思い…

スカーフをきちんと襟に通し、上着の下に着たTシャツの裾をスカートにインしてる自分。真面目な女子高生スタイルが気恥かしい。それにノーメイクだと、自分の顔って結構幼いんだよなぁ。

最近は校内じゃ男子にも女子にも“イケてる女子”と一目置かれてたから、こんな自分をみんなに見られるのは恥ずかしい。

けど野球部のマネージャーだから仕方ない…。

外に出ると男の視線が痛かった。同じミニスカでも、制服…特にセーラー服は注目度が違う。手が自然にお尻に延び、スカートを押さえてしまう。今日みたいな清純そうな感じが一番男をソソるって、優樹菜たちも言ってた。いつもの自分みたく髪の毛巻いて、ばっちりメイクしてヘソとか出してるほうが、同じミニスカでも恥ずかしくないんだけど…。男だって意外とそっちの方がイヤらしい目で見ないのにな。

ってか“いつもの自分”って何だよ。本当の自分は、まずスカートなんか履かねーだろ！…まぁ今さらそれを言ってもしよーがないけど…

マネージャーを辞めると、学校自体あんまり行かなくなってた。悪い友達とつるむようになっていった。野球部のエースで成績も優秀だった自分が、ギャルと呼ばれる人種になるなんて思ってもみなかった。まあ女になること自体が、ありえないことだけど。この１年ちょっとは、ホント転落の日々だった。

でも野球部で頑張ることで、少しずつやり直せる気がしてるんだ…。

…とか言いながら、いきなり遅刻寸前の大ピンチ。監督に「朝一番に来い」って言われたのに。

夕べは11時にベッドに入ったけど全然眠れなかった。緊張してたんだと思う。そしたらマニキュア落としてないことに気付いて…いや、気づいて良かったんだけどさ、それが全然落ちなくて…優樹菜に教えてもらったヤツ、ダメだよアレ。カワイーけど。やっと落ちた時には、もう３時回ってた。

小走りで学校に向かう。最近はヒールの高い靴ばかりだったから、ローファー自体は走りやすいはず。でもプリーツスカートって広がるから、スピードが出せない。ひらひらと揺れるスカートをオジサンたちが見ている。もぉ！パンツは見えねーよ！ちゃんとスパッツ穿いてるっつーの！

グラウンドに着くと、みんなはもう軽く体を動かしていていた。こっそり合流して誤魔化そうと思ったけど、監督に見つかってしまった。

「こらアヤ！いきなり遅刻か！一番に来いって言ったの忘れたのか？…とに、こっちの気も知らんで…まぁこっちに来い」

怖々と監督の方に小走りすると、部員が一斉に走り寄って来た。
「や、やだ！なに？なに？」
こ、怖い…だって50人近い男が無言で突進してくんだぜ？これに恐怖を感じない女なんているか？い、いやオレは男だけどさ。ヤローどもは監督とオレを囲んで叫んだ。

「あ”ース！」

は？…ああ、挨拶したのか。久しぶりに聞くと変だなコレ。そーか。ミーティング始まるんだ。

「えー…昨日は運良く勝てて、我が校初の甲子園切符を手に入れることができた。３年にとっては、少なくともあと10日は高校野球ができるわけだ。例年なら進学校で他校より引退の早いウチの部員が、全国でまだ野球をやっている数少ない３年生に…」

懐かしい監督の挨拶。相変わらず堅苦しいな。ふふっ。

ヤローどもの目線は監督を見つつ、久々にグラウンドに顔を出したオレにチラチラ送られている。ソレがみんな決まったように顔→胸→脚ときて、最後は胸でじっと止まる…ちきしょっ！ホント男って胸好きだよな。女はみんな気づいてんだぜ。無表情な顔してヤらしー目で見んな！こいつら絶対ドーテーだな。

ビュウッ！と強い風が吹いた。
「きゃっ！」
慌ててスカートを押さえた。ぉぉっ…って低い声が響いた。

バーカ!見えないっつーの！けど目のギラつきが怖かった。そういう目線にはかなり慣れたつもりだったけど、一緒に野球やってきたコイツらにそういう目で見られるのはキツイな。はは…

みんな、どんな風にオレのこと見てるんだろう？

藤川があー言ってくれたのは心底ありがたいけど、部のみんなが好意的なワケじゃない。最近は校内で会っても白い目で見る部員が多かった。

きょうは以前のように、格好だけはマジメ少女してる。けど昨日、全部員に今の姿を見られた。落ちこぼれ、だらだらと遊んでいた自分。ハデな仲間に合わせているとはいえ、カワイイ服を着て、メイクまでするようになってしまった…。

お堅い女が色気づいた…くらいに思ってるヤツもいるだろーな。元々のアヤはマジメな少女。オレもそれを演じていた。でも、そんなのすっかり崩れ去った。今さら、そんな風にも振る舞えない。これから、野球部でどんなキャラでいればいいんだろーか。