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アイツの体?オレの体?

力強い手のひらが肌を滑る。厚い脂肪と、その奥の僅かな筋肉が解れていく。

「はァぅ…」

思わず声が漏れた。

「ふふ。三上くん本当カワいいね」
「な、なことねーよ」
「マジ、このビーチで一番かも」
「い、言い過ぎだソレわ」
「ホントだよ~髪型もビキニもちょーカワイイし」
「もぉ、やめろって!」

何て答えたらいいんだ?女モードなら『ありがと』とか『そんなことないよ~』とか言って流すけど。男モードだと、怒るのが正解だよな。

けど、こんなに何度もカワイイって言われると…

オレのコトよく見てくれてるの分かるし、嬉しい。こんな風にアイツと笑える日が来るなんて想像できなかった。もう話すことすらないと思ってた…

「言われない?カワイいって」
「い、言われないよ」
「ウソ。絶対ウソ」
まぁ、そこそこ言われてるよ。ふふっ。
「たまにだよ。たまに」

ヤバい。喜んでるみたく見えたか?

べ、別にカワイく見られたいわけじゃねーよ?…でも、アヤになってからのオレは、それしか褒められるものがないんだもん。

もう野球部のエースでも、学年トップクラスの秀才でもない。今のオレは何をやっても人並み以下。周りに見下され、嘲笑を浴びるのは、もしかしたら女になったこと以上に辛かったかもしれない。

でも鬱々とした日々を過ごす中で、ある日気付いたんだ。意外にも、コイツが結構カワイかったってことを。

男としては複雑だった。でも幾ら考えても、他に人より秀でたものはなかった。

いつの間にか必死でカワイくなろうとしてた。周りに見下されないために。

それでも「カワイイ」と言われ始めた頃は、嫌悪感の方が強かったんだ。でもドン底を味わったオレに、褒められる快感は麻薬だった。

チヤホヤされ続けの人生から、いきなり全てを失ったんだ。人に認められることに飢えてた。再び向けられた羨望や嫉妬の眼差し。もう手放すことなんてできなかった。

今もとろけそうになる自分を必死に抑えてる。

「たまにじゃないでしょ~。クラスの男子も言ってるよ?カワイイって」
「ホント!?」
あ…顔にやけた。
「…そ、そんな風に見られてんのか?キモ~…んぅあッ!」

のぼせた頭に走る電流のようなざわめき。

う、内腿!そんな深く…!?アイツの親指、ビキニに触れてなかった!?

「ごめん。ヤバイとこ入った?」
「べ別に!」
「感じて…」
「くすぐったかっただけだ!てか気を付けろ!」

感じたとかじゃねぇ!ゾクゾクきたのは寒気…悪寒だ!

「くゥあ…!」
今度はマットに押し潰されるように広がる胸の肉に触れた。
「お、おい…今…」
「垂れ目かわいーね」
「は?お、おう。オマエ、メガネしてたからな。もったいねーと思って…ぅあッ!」
「そんなにカワイくタレてたんだぁ…」
「まぁ、つけまの工夫とかもあるけど…ぁうッ!」
「え?してるの?」
「今日は野球部用っつーか、まばらで短く切ったのしてる…」
「へー」

…やだな。注意できない。だって絶対また「感じる?」って聞かれる。それに褒めてくれてる時に口挟みづらい…

これが明らかに故意なら抗議する。でも、繰り返される“侵入”が、あまりに微妙な頻度で、微妙な部位だ。

自意識過剰…自分に言い聞かせる。…また来た!ヨコチチ…内腿…首筋…。アイツの指が自然に滑り込むたび、小さな喘ぎ声が漏れる。我慢しても体が反応しやがる。
「ぅアン…」
今の声ヤらしいか!?息を押し殺した。
「…ぁァ…」

さ…さすがに、もぉ限界だ。
「んンん!」
体をよじり、緩やかに抵抗した。

「やだ…三上くん、マジで感じてるの…?」
「バ…!なわけなーだろ!怒るぞホントに!くすぐってーの!」
アイツの目が疑いの色を浮かべてた。

「まぁ見た目にそんだけ成長してんだし、むしろ感じちゃうのが正常なのかな」
「バ、バカ!なわけあるか!オレは男だぞ!」
「あは。そうだよね。三上くんに限って。でも少し声抑えてね」
「お、おう」
何も言えなくなった。

“微妙なエリア”はどんどん広げられて行く。そそ、そこ完全におっぱいじゃ…

「あたしン頃は幼児体型もいいとこだったのにね。その体には来ないかと思ってたよ。第二次性徴」
「…」
「来たね。おっきな波が。入れ換わった直後に」

…そーだよ。せめて入れ換わる前に来てくれたら、オレの屈辱だって少しは小さく済んだかもしれない…

「スゴい体。胸もお尻もホント大きくなったね」
「もぉッ!言うな!」

『カワイイ』はいいけど、いまだにデカくなってる胸と尻、丸みを帯びてくの体はホントにヤだ。

「やだな…デブだから…」

カワイイと一目置かれるようにはなった。けど、どこかバカにされてると感じている。それは、きっとこの体つきのせいだと思う。

更新日:2013-12-19 18:50:12

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