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黒の章~黒き覇道を歩む王~

啓太が魔導に目覚めて早くも三日が過ぎ、色んな所を二人で旅をしていた。
しかし、それは決して楽な旅ではなかった。
人の噂というものは早く伝わるもので、災いを呼ぶ「破滅の者」と「終焉王」と呼ばれる魔導士が手を組み、世界を滅ぼそうとしていると流れ始め、賞金稼ぎと世界を守るためと戦う人がほぼ毎日襲ってくるようになった。
さらに、行く先の町では迫害を受け、指名手配されてしまい、自給自足の生活が続いていた。
だが、自然生活に慣れていない二人は、料理も出来ず、狩りも出来ないといったピンチを迎えていた。
唯一、食べられるものといえば啓太が魔導で出した『非常食』のみだった。
そして、今夜も味気もない非常食を二人で食べることになった。

(こんなとき、将吾がいてくれたらな・・・・もしくは将吾のように料理出来たらな)

啓太は、たき火を見ながら、味気のない非常食をかじりながら心底羨ましく思う。

メイはメイで、何かを必死で考えているのか、非常食を口にせず、たき火をジッと眺めているだけだった。

(・・・どうすればいいんだろう・・・)

自分のせいでこんな状況になってしまったことに責任を感じていた。
賞金稼ぎや迫害にあってしまうのは自分のせいであり、自分にさえ関わりがなければ、きっと啓太は普通の生活を送れるはずだ。
こんな危険な目に遭うのは全て自分のせいなのだ。
そう思い啓太の前から消えようと考えたが、啓太の性格上、自分を必死に探し出すに違いない。
なら、せめて啓太を元の世界に戻すことが出来れば・・・。
それも簡単ではなかった。
自分は啓太と違い魔導士でも、博識でもない。
魔導士の知識を得た啓太に相談できるはずもなく、調べようにも町に入ることすら出来なかった。

(せめて、図書館にでも行けたらな・・・)

図書館に何か手がかりがつかめるかもしれない。
なぜ、異世界の人間が召喚されたのか?

なぜ、急に魔導を使いこなせるようになったのか?

いくら知識を得たからといって、すぐに自分の魔導を使いこなすのは不可能に近いハズ。
なのに、まるで戦いなれた熟練者のように戦えたのか?

「メイ、具合でも悪いの?」

「・・・大丈夫。なんでもない」

啓太に呼ばれ、メイは啓太のほうを振り向き、心配させないように優しくほほ笑みかけた。
そこには啓太が心配そうな顔をしながらメイを見つめていた。
自分のせいでこんな目に遭っているのもかかわらずに・・・・。

(仕方ない・・・・)

メイはボロボロの地図を見ながら目的地を指で撫でた。

(あの人に会いに行かなくちゃいけないみたい・・・・。)

メイは決心し、手に持っていた非常食を食べた。先ほど、メイが指していた目的地には「賢者の里」と書かれていた。



翌朝、二人は痕跡を残さないように焚き火の後を隠し、目的地である「賢者の里」へと歩き出した。

(「賢者の里」・・・か・・・)

啓太の知識の中には、そこにはかつて有能な魔導士がたくさん住んでいたのだが、その力ゆえにお互いに殺し合い、今では誰も住んでいない廃村で、危険な罠があるため立ち入ることは許されない・・・となっている。
だが、メイが言うにはそこにはその里の唯一の生き残りにして、この世界のことを全て知っている「漆黒賢者」という魔導士が住んでいて、その人に知恵を借りに行くとのことだ。
賞金稼ぎなどに追われない方法を聞くのだろうと思い、そのことについてはあまり深く追求しなかった。


かなり近くまで来ていたみたいで夕方までにはなんとか里に付くことは出来た。
しかし、その里は想像以上に酷いところだった。
焼け落ちた家、大きな穴の開いた家、ガラスのように脆くなってしまった不毛の大地。
なにより、一番目立つのは、里の中心に大きなクレータがあり、その穴にはいくつもの骨が地面から生えるように見えていた。
それは過去に起こった魔導士同士の争いが酷いものなのかを物語っていた。
啓太はこの地獄絵図のような光景にその場で膝をつき嘔吐してしまった。

「大丈夫?啓太」

メイは平然としており、啓太の背中を優しくさする。
メイがさすってくれたおかげで少しマシになった。

「お二人さん、何しているの?」

啓太は少年の声を聞き、ゆっくりと頭を上げ、驚きに声が出せなかった。
嬉しさで涙が溢れ、視界が歪みながらも啓太は弓を持った少年をジッと見ていた。

「・・・久しぶりだな、啓太」

少年は相手が啓太だとわかるとすぐに明るく無邪気な笑顔で嬉しそうに言った。
その少年は「将吾」という名前だった。

更新日:2013-05-07 02:39:03

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