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仕事帰りにテミンの様子を見て、キボムはようやく家に帰ってきた。
4LDKの、広々とした高級マンション。

病院の跡取り息子だなんて御曹司もいいところだけれど、そんな肩書きの割に親から特に何か高級なものを買ってもらったことはなかった。
しかし、唯一の贈り物と言ってもいい、成人祝いにくれたこの部屋。
父親の名義を、キボムに書き換えてくれたらしい。
両親の考えることがぶっ飛んでいて、思わず笑ってしまう。

成人を迎える前に、両親にした将来の話。
医師免許は取る。
けれど、今興味があるのはファッション関係の仕事で医者ではない。
中途半端な気持ちのまま患者の前に立ちたくはないとも言った。

もちろん父親には反対されたけれど、実家の病院に通うには遠すぎるこのマンションの一室をくれたということは、そこで頑張ってみろということなのか。
自分で都合の良い方に解釈している。


部屋で少しだけ残っていた仕事をするためにパソコンに向かい、それが終わったら夕食の支度。

「何にしようかな…」

冷蔵庫を開けながら一人で呟いて、思いつくままに食材を並べていく。
パスタとサラダ、今日は少し贅沢に、あともう一品は作りたい。

キッチンに響くまな板と包丁が触れ合う音と、キボムの浮かれた鼻歌。
2時間近くかけてようやく完成した料理。
ダイニングテーブルにお皿を並べて、赤ワインをことんと置く。

するとタイミングよく玄関の扉が開いて、「ただいま」という良く響く声。
玄関までパタパタと走って、とびきりの笑顔で出迎える。

「おかえり、ミノ!」

キボムの視線の先には、音信不通になっているはずの親友の姿があった。


「今日はずいぶん豪勢だな…。何かいいことでもあった?」

自分の誕生日を本気で忘れているミノにクスクスと笑いながら、キボムは早く食事にしようといつものペースでコートを脱ぐミノを急かす。

「ワインまであるし、何?ご機嫌取りして頼みごと?」

「何それ、人聞き悪いなー。そんなんじゃないって。ほら、食べよう」

赤ワインを注いだグラスで乾杯すると、綺麗な高い音が響いた。

「誕生日、おめでとう」

キボムの言葉に一瞬きょとんとなって、すぐに大きな目が優しく垂れる。

「そっか、今日…。参ったなー、全然覚えてなかった」

視線が重なり合えば、これ以上ないほど優しい笑顔で「ありがとう」とミノが微笑んだ。

ようやく、こうやって笑うようになってくれた。
この笑顔を見るまでに、どれほど苦労したことか。


更新日:2013-04-24 00:41:19

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