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レジを済ませた母とテミンは、スーパーを出たところで小学生くらいの男の子とすれ違った。

「お母さん…!」

声に振り返れば、母親らしき女性が男の子に手を差し出す。

「ほら、早くいらっしゃい」

当然のように繋がれる手。
その様子をじっと見ているテミンに、母は自分の手を差し出した。

「帰ろっか。」

「…うん!」

嬉しそうな声と、軽くなる足取り。
駐車場の車までのほんの少しの距離だったけれど、手を離した後も温かい感触は残っていた。


家に戻ってからリビングでテレビを見ていたテミンの頭が、かくっと前に垂れたかと思うと元の位置に戻る。

「テミン君」

声をかけられて少し引き戻された意識が、またすぐに遠くなった。

「眠いの?」

遠くで聞こえる声に返事をすることもできず、こくんと頷いてみる。

「外出て疲れちゃったかな…。お昼寝しようか。今、掛けるもの持って来るね。」

そう言って遠ざかる足音が聞こえ、しばらくすると今度は同じ足音が近付いた。

「テミン君、ソファーで寝よう。」

床に座ってソファーに寄りかかっているテミンは、閉じかかっている目を一生懸命に開ける。
自分に伸ばされた手に体重をかければ、少し体が浮いて気付くとソファーの上にいた。

ふわっと香る柔らかい香りに包まれて、思わずその温もりにぎゅっと抱きつく。

「お母さん…」

そう呟いたのは、無意識だった。

「ん?どうしたの?」

自分の子どもではないのに、当たり前のように返してもらえた言葉。
何も答えずにいると、背中をぽんぽんと優しく叩かれどんどん意識が遠くなる。

(お母さん…)

ずっと幼い頃から無意識に追い求めていたその存在を、テミンは夢の中でも呼び続けた。


更新日:2013-03-31 22:47:42

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